次代を担う成長企業の経営者は、ピンチとチャンスが混在する大変化時代に対峙し、どこにビジネスチャンスを見出し、どのように立ち向かってきたのか。本特集ではZUU
今回のゲストは、株式会社鳥貴族ホールディングス代表取締役社長の大倉忠司氏。コロナ禍で大打撃を受けた飲食業界にあって、新業態に取り組み始めた同社は、アフターコロナをいかに生き抜こうとしているのか、その戦略と未来構想を聞いた。
(取材・執筆・構成=落合真彩)
1960年2月、大阪府生まれ。調理師専門学校卒業後大手ホテル、焼鳥店勤務を経て1985年25歳のときに独立。『鳥貴族』第一号店を東大阪市内にオープン。1986年株式会社イターナルサービス(現:株式会社鳥貴族ホールディングス)を設立し、チェーン展開を開始。大阪を中心に出店し、2005年に関東圏へ進出、2009年に東海圏へ進出。
2014年東証ジャスダックに株式を上場。2015年東証2部へ市場変更、2016年東証1部へ指定。2021年持株会社体制へ移行し、株式会社鳥貴族ホールディングスへと商号を変更。
神奈川県出身。一橋大学経済学部卒業。大学在学中にIT分野で起業。2006年 野村證券株式会社に入社。国内外の上場企業オーナーや上場予備軍から中小企業オーナーとともに、上場後のエクイティストーリー戦略から上場準備・事業承継案件を多数手掛ける。2013年4月 株式会社ZUUを設立、代表取締役に就任。複数のテクノロジー企業アワードにおいて上位入賞を果たし、会社設立から5年後の2018年6月に東京証券取引所マザーズへ上場。現在は、プレファイナンスの相談や、上場経営者のエクイティストーリーの構築、個人・法人のファイナンス戦略の助言も多数行う。
コロナ禍で好調なハンバーガー業態にスピード参入
冨田:弊社のある渋谷は非常に鳥貴族さんの店舗が多いエリアなので、私自身も社内のメンバーも含めて本当によくたくさん使わせていただいています。今日の対談も楽しみにしていました。読者で鳥貴族さんのことを知らない方はいないと思いますが、この対談ではコロナ禍での大きな変化などもお聞きできれば幸いです。まずは、これまでの事業の変遷をお伺いできますでしょうか。
大倉:36年前に鳥貴族を創業しました。イメージカラーを黄色にしたのは、気持ちを明るくさせたり、ハッとさせたりする色なので、看板などで使うと非常に目立つからです。当時はラーメン屋さんや中華料理屋さんによく間違えられましたね。当時から全国チェーンを目指していたものの、なかなか思うように成長していけない期間が続きました。
創業から18年目に、大阪・道頓堀に出店することができまして、これが最初のターニングポイントとなりました。大阪でも道頓堀という繁華街、そして初の空中階にある店舗で成功したこと。この2つが、鳥貴族の大きな可能性となり、そこから成長が加速しました。
その2年後に東京に進出。これをきっかけにメディアやマスコミの注目度は大きく変わりました。大阪のローカルチェーンというイメージから、知名度は全国的に広がり、居酒屋、焼鳥屋といったジャンルでのブランディングも効果的に行うことができたと考えています。
今回コロナというかつて経験したことのない事態が起こりました。ほぼ全店舗が休業となり、我々の存在意義を揺るがすような出来事でした。感染症の専門家からは、こういった感染症は今後10年おきくらいに起きてもおかしくないと聞きます。すると、このまま居酒屋業態にだけしていては10年ごとに経営を脅かされてしまう。だから将来同じようなことが起きたときに、居酒屋業態を支えてくれるようなもう1本の柱をつくり、経営基盤を強くしなければなりません。
そして今回、「TORIKI BURGER」というハンバーガー業態の立ち上げを決断しました。ご存知のとおり、ハンバーガー業界はコロナ禍でも非常に好調ですから、「TORIKI BURGER」を居酒屋に次ぐ柱として育てていきたいと考えています。
冨田:道頓堀での成功、東京進出、新業態への展開と変化を続けられてきたのですね。特に「TORIKI BURGER」は個人的にかなり衝撃的でした。まさかバーガーにいくとは、と。
10年後の目指す姿として「鳥貴族のDNA(チキン、均一価格、国産)をもった業態で、日本全国、そして海外へも進出し、世の中を明るくしていくグローバルチキンフードカンパニーとなる」と打ち出されています。このメッセージはインパクトがありますよね。「チキン」という切り方は非常に斬新で、経営戦略の奥深さを感じさせられました。
「チキン」が持つ3つの圧倒的ポテンシャル
大倉:ありがとうございます。焼鳥屋をずっと経営してきて、チキンという食材の素晴らしさは、私自身そして社内も自覚はしていました。実は鳥貴族のアメリカ進出のために、コロナ前は定期的にアメリカを視察していたのです。
その中で、チキンのファーストフード、向こうでは「チキンサンドイッチ」といいますが、チキンバーガーショップの繁盛ぶりをこの目で見たときに「これを鳥貴族が日本で展開したら面白いんじゃないか」とひらめいたわけです。
当時は、鳥貴族のアメリカ進出を優先していたのですぐに動き出したわけではなかったのですが、今回コロナの影響もあり、その構想の実現を早めたという経緯になります。
冨田:なるほど、そんな背景があったのですね。「グローバルチキンフードカンパニー」を目指すうえで、いま打ち手として考えられていることをぜひ少しお話しいただけますと幸いです。
大倉:ハンバーガー業態を展開するにあたり、改めてチキンという食材について調査したら、私が想定した以上に将来性がある食材だなと感じました。日本では一番消費される食肉はチキンですし、ビーフの国だと思っていたアメリカも、いまやチキンの消費量がビーフを抜いています。
世界を見ても食肉ナンバーワンの消費量を誇るのがチキンなのです。この理由は、まず安価であること。もう1つ、宗教に影響されないこと。また、先進国においては低カロリー高タンパク質のチキンの需要が高まってきています。
このような背景から、チキンに特化して、「チキンフードなら鳥貴族ホールディングスグループだ」と、日本をはじめグローバルに思っていただける存在になれればと思い「グローバルチキンフードカンパニー」を掲げました。
冨田:なるほど、すごく腑に落ちました。私も前職時代にシンガポールにいたことがあります。ある意味アジアの人種のるつぼみたいな場所でしたので、いろいろな宗教の方がいて、食事にも気を配る必要がありました。
また、筋トレや体づくりへの関心が高まっているいまの世の中で、低カロリー高たんぱくのチキンは、トレンドに乗った食材であると非常に深く理解しました。
加盟店も含めたアフターコロナの成長戦略
冨田:これまでのお話も含まれてくるかと思いますが、大倉社長は自社のコアコンピタンスをどのように捉えていらっしゃいますでしょうか。
大倉:「チキンフード」に事業領域を絞り、それを大衆価格で提供する。これが鳥貴族の特徴ですが、社員がそこに誇りを持てるような経営を大事にしています。重視するのはやはり理念や共通の価値観。「トリキウェイ」という考え方を定めております。鳥貴族が好き、会社が好きだという思いを持ってもらうことが会社として最も強いパワーになると思いますので、私は一番大切にしています。
経営の目的は、すべてのステークホルダーを幸せにすること。その実現のためにはまず社員が幸せでなければ、他のステークホルダーを幸せにすることはできません。会社への愛、そして仕事への誇り。それが他社との差別化になればなと思っております。
冨田:大倉社長や経営チームが経営判断において重視されていることや特徴はどんなところにあると思われますでしょうか。
大倉:はじめに考えるのは、「これは社員にとって幸せなのか」。次に「会社にとって本当に良いことなのか」。そして「社会に貢献できることなのか」。この3つの判断軸で決断するようにしています。もっと簡単に言うと、正しい経営というところですね。
冨田:ありがとうございます。そういったところがやはり鳥貴族ブランド、お店での楽しさや雰囲気、そういうものに大きく影響を与えているのだろうなと思います。フランチャイズ展開も強いイメージがありますが、鳥貴族さんのフランチャイズモデルにおいてのメリットや、機会の見極め方についてもお聞かせいただけますでしょうか。
大倉:本部側のメリットは、やはり他人の経営資源のもとに展開できることです。スピーディーに成長することができます。加盟者側は、失敗の確率が低くなることです。成功するためのノウハウを本部から享受できますので、そこがメリットです。
ただ、やはり今回のコロナを契機に、加盟者側も考えさせられたと思います。いま居酒屋のみで展開されている会社は特に、アフターコロナにおいても居酒屋だけでいいという固い発想はなかなか持てなくなったのではないでしょうか。事業ポートフォリオとして、違う柱を作っていかなければならないと考えていかれると思います。
冨田:いま232店舗をTCC(鳥貴族カムレードチェーン※鳥貴族独自の加盟店の呼称)で展開されています。いまのTCCの会社さんが今後「TORIKI BURGER」の店舗をオープンしたり、将来的には逆に「TORIKI BURGER」側から参入して、鳥貴族店舗も運営したりするといった展開も見えてきますね。
大倉:そうですね。いまのカムレード企業さまにとっても、やはり「TORIKI BURGER」という新たな業態をともにやっていくことが経営基盤の強化につながると思っています。カムレードを含めた今後の成長戦略が必要だと考えています。
鳥貴族が目指す2つの未来「グローバル」「起業家輩出」
冨田:ありがとうございます。では最後に、ここから未来にかけての構想についてお伺いできればと思います。
大倉:1つは、先ほど申しました長期ビジョンである「グローバルチキンフードカンパニー」になることです。もう1つが、まだあまり目立ってはいないのですが、社員独立制度の拡充です。社員にいろいろなキャリアのコースをつくり、働きがいにつなげたい。どんどん社内からも独立する人、起業家を輩出したいなと。グローバルチキンフードカンパニーになるとともに、起業家輩出企業にもなりたいです。
冨田:鳥貴族ブランドが好きで、ロイヤリティが高い方たちがオーナーになってどんどん独立されれば、非常に心強いですね。
大倉:そうですね。それによって、これまで鳥貴族が出店できなかったエリアにも出店できる可能性が広がります。全国津々浦々、鳥貴族グループでお客さまに貢献できればと思います。
冨田:将来自分の店を持ちたいと思っている人が、「店舗運営や経営経験を積みたい」と入ってくるようになると、自然と売上や店舗数も増えていくと思いますし、好循環が生まれる未来が見えます。グローバルチキンフードカンパニーを目指す姿としていると、ハンバーガー業態だけでなくあらゆる領域に広がる可能性があるのではないかと感じました。本日はありがとうございました。
プロフィール
氏名 | 大倉 忠司 |
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会社名 | 株式会社鳥貴族ホールディングス |
役職 | 代表取締役社長 |
ブランド名 | 「焼鳥屋 鳥貴族」「TORIKI BURGER」 |