IPOを目指すベンチャー企業へ、1口約10万円から投資ができる日本初の株式投資型クラウドファンディング「FUNDINNO(ファンディーノ)」。これまでプロ投資家や特定の資本家だけに閉ざされていた「未上場企業への投資」という聖域を、一般の個人投資家へと開放した画期的なプラットフォームです。
かつて、日本のイノベーションを阻んできた大きな要因の1つは、新しい挑戦を支える「リスクマネー」の圧倒的な不足でした。FUNDINNOはこの構造的課題に対し、投資家が起業家と共に夢を追い、その成長を間近で見守るという「共創」の仕組みを提示することで風穴を開けました。
「リスクマネーの供給量を増やし、フェアに挑戦できる未来を創る」。執行役員の向井純太郎氏が語るその志は、単なる金融サービスの枠を超え、停滞する日本経済に「挑戦の民主化」という新たな息吹を吹き込もうとしています。金融DXの先にある、新しい資本主義の正体に迫ります。
株式会社FUNDINNO 執行役員 CMO / FUNDOOR本部長
日本のリスクマネー供給に風穴を開ける
――まずは、FUNDINNOを立ち上げた背景についてお聞かせください。未上場企業への投資という領域に、どのような可能性を感じて起業されたのでしょうか。
向井純太郎氏(以下、向井氏):私は創業者ではありませんが、代表の柴原(祐喜氏)らが抱いていた想いはシンプルです。一言で言えば、我が国における「リスクマネー」の供給量を増やしたいという一点に尽きます。
これまで日本は、歴史的に「融資」が非常に強い文化でした。銀行からお金を借りて事業を営む。これは素晴らしいシステムですが、一方で、海のものとも山のものともつかない、しかし世界を変える可能性を秘めたシード期のスタートアップに対しては、融資という枠組みだけでは支えきれない側面がありました。
――日本に新しい産業が生まれにくいと言われてきた要因の一つですね。
向井氏:そう考えています。代表の柴原はシリコンバレーで、アイデアと熱意がある起業家に対し、エクイティ(資本)という形でリスクを取る資金が流れ込み、巨大なイノベーションを次々と生み出す光景を目の当たりにしました。「日本にもこの仕組みがあれば、挑戦者の数はもっと増えるはずだ」という純粋な想いが、FUNDINNOの出発点となりました。
――創業した2015年当時は、まだ個人が投資すること自体が一般的ではありませんでした。あえてハイリスクな未上場株投資に舵を切った「真の狙い」はどこにあったのでしょうか。
向井氏:金融の世界には、顧客一人ひとりの属性や資力に見合った商品を提供すべきという「適合性」という原則があります。私たちは、誰もが利用する積立投資サービスを目指したわけではありません。あくまで「起業家を応援したい」「新しいビジネスの誕生に立ち会いたい」という、強い意志を持つ投資家に向けたサービスを追求しました。既存の金融商品では満たされなかった層の受け皿。そのニーズは必ずあると確信していました。
――サービス開始のきっかけは、起業家への資金提供と、投資家のサポート、どちらに軸足があったのでしょうか。
向井氏:その両者を結びつける「マッチング」こそが本質です。かつて日本から新しいビジネスが生まれにくかった要因を分解すると、起業家側に資金が回らないという「To B」の課題と、個人投資家がベンチャー投資を行える環境がないという「To C」の課題が、表裏一体で存在していました。
起業家には成長資金を届け、投資家には新たな選択肢を提供する。この「両面の解決」を同時に狙うことこそが、私たちが目指すべきマッチングの姿だと考えています。
ライセンス取得の壁と「信頼」という名の資産
――2015年の創業からサービス開始まで、2年間の準備期間を要しています。この間、どのような困難に直面していたのでしょうか。
向井氏:最大の壁は「ライセンス」でした。金融機関としての登録は必須ですが、私たちがやろうとしていた「株式投資型クラウドファンディング」は、当時の日本において前例がありません。日本で初めての試みゆえに、「本当に実現できるのか」という不透明さからくる恐怖感もありました。
まさに暗中模索です。加えて、社会的信頼の獲得という高いハードルもありました。金融という保守的な領域で、実績のないスタートアップが「ネットで未上場株を募集する」と言い出したわけですから。当初、起業家も投資家も疑心暗鬼だったのは無理もありません。
――その「不信感」をどのように払拭していったのですか。
向井氏:地道な対話と、戦略的な広報活動です。不信感の正体は「未知」にあります。私たちが何者で、どのようなガバナンスの下で何を目指しているのか。それを透明性高く発信し続けることで、少しずつ風向きを変えていきました。
実は初期の段階で集まったのは、当時のVC(ベンチャーキャピタル)が好んだITやSaaS一辺倒の企業ではありませんでした。むしろ地方のモノづくり企業やスポーツチーム、あるいは社会貢献性の強いビジネスなど、既存の枠組みでは投資対象になりにくかった領域の方々です。
彼らには、個人の投資家が「応援したい」と思える純粋なストーリーがあったからです。「日本の技術を絶やしたくない」「このチームを勝たせたい」といった共感こそが、リスクマネーを動かす強力なエンジンになります。こうした「双方にメリットがある」という関係性が、初期の成功を支える土台となりました。
投資を「体験」へと昇華する共創のプラットフォーム
――投資家と起業家の関係性について伺わせてください。FUNDINNOを通じて結ばれる両者の間には、単なる「資金の出し手と受け手」を超えた、非常に濃密な連帯感があるように感じます。
向井氏:私たちのサービスを通じて投資をされる個人投資家の方々は、非常に投資経験が豊富で、目が肥えている方が多いのが特徴です。もちろん、経済的なリターンへの期待は不可欠ですが、それ以上に彼らが求めているのは、投資を通じた「体験」なのです。
――具体的にどういうことでしょうか。
向井氏:上場企業の株を持つことと、FUNDINNOで未上場企業の株を持つことの決定的な違いは、経営者との「距離感」にあります。上場企業の場合、一株主が社長の肉声を聞いたり、事業の進捗を肌で感じたりする機会はどうしても限定的になりがちです。しかし未上場企業の場合、投資家はまさに「共に歩む仲間」に近い存在になります。
経営者の情熱を直接受け取り、壁にぶつかりながらも事業が成長していくプロセスを間近で見守る。時には株主としての枠を超えて、一人のユーザーやファンとして事業を支えることもあるでしょう。自分の投じた資金が、具体的にどう社会を変えていくのか。その「手触り感」のあるプロセスそのものが投資家にとっての大きな報酬となる、いわば「体験型」の投資なのです。
――一方で、資金を受け取る起業家側にとっても、そうした「顔の見える株主」の存在は大きな意味を持ちますね。
向井氏:おっしゃる通りです。起業家側からすれば、FUNDINNOでの調達は単なるキャッシュの確保に留まりません。数百人規模の個人投資家が株主に加わることは、強力なサポーター集団を味方につけることと同義です。彼らは最も熱心な顧客であり、最も率直なフィードバックをくれるアドバイザーでもあります。
――「出資者」という枠を超えて、事業を共に育てる「パートナー」としての色合いが濃くなるわけですね。
向井氏:それだけではありません。法人投資家や事業会社様が参画される場合は、具体的な「事業連携」や「共創」へと発展するケースも少なくありません。私たちは、投資家と起業家の関係が短期的な利益の奪い合いではなく、長期的な視点で共に価値を高め合うべきだと考えています。
そのため、投資後もその関係性が途切れないよう、インフラの整備には心血を注いできました。例えば株主管理ツールの「FUNDOOR(ファンドア)」。これは事務を効率化するだけでなく、経営者が定期的に情報を発信し、株主が事業の「今」を把握し続けられる基盤です。3ヶ月に1回、経営者の想いがアップデートされるたびに、投資家は自分がその物語の一部であることを再確認する。こうした継続的な関わりこそが、日本に新しい投資文化を根付かせる鍵になると確信しています。
「公人」としての誠実さが信頼の土台となる
――投資家と起業家が対等に向き合うプラットフォームであるからこそ、そこには厳格な「規律」も求められるはずです。審査においては、どのような基準を設けているのでしょうか。
向井氏:まず投資家の皆様に対しては「適合性の原則」に基づいた厳格な審査を行っています。ベンチャー投資は本質的にハイリスク・ハイリターンです。ご資産の状況やこれまでの投資経験が、そのリスクを許容できるステージにあるかどうかを、段階に応じて厳密に見極めさせていただいています。
――インターネットで小口から参加できる仕組みであっても、誰もが投資できるわけではないのですね。
向井氏:はい。お客様の属性に合わせた適切な商品提供を行うことは、金融機関としての基本的な使命です。ネットでの小口投資から対面での大口投資まで、それぞれのステージに応じた「適合性の原則」に基づく評価を徹底しています。
――では、投資を受ける起業家側に対しては、どのような資質を求めているのでしょうか。
向井氏:私たちが注視しているのは、起業家の「誠実さ」です。私は常々、資金調達をすることは、個人から「公人(おおやけの人)」になることと同義だ、とお伝えしています。ひとたび外部から資本を受け入れた瞬間、その資金は投資家から預かった「社会の公器」になります。株主に対して透明性を持ち、誠実に事業を報告し、対話を続ける覚悟があるか。その姿勢が欠けている方は、どんなに事業モデルが優れていても、FUNDINNOで支援することは難しいと考えています。
――「フェアに挑戦できる未来を創る」というビジョンも、その誠実さの延長線上にあるのでしょうか。
向井氏:その通りです。私たちは「情報の格差」をなくすことを非常に大切にしています。投資家側はプロとしてノウハウを蓄積していますが、一方で起業家は人生を懸けた初めての挑戦であるケースがほとんどです。この格差が起業家を孤独にし、判断を誤らせる原因にもなります。
――格差を埋めることが、挑戦者を守ることにもつながるわけですね。
向井氏:起業家には世の中にどんな投資手段があるのかを知ってほしいし、自分にぴったりの投資家と出会ってほしい。情報の非対称性を解消し、投資家と起業家が対等な立場で情報を共有できる環境を作ること。その信頼関係の土台があって初めて、リスクマネーは健全に機能し、社会に新しい価値を生み出すことができるのだと確信しています。
FUNDINNOが描く「エコシステム」の全貌
――投資を募る「FUNDINNO」を起点に、株主管理の「FUNDOOR」、さらには売買を可能にする「FUNDINNO MARKET」と、次々にサービスを展開されています。一連のラインナップは、どのような思想の下で設計されたのでしょうか。
向井氏:私たちのサービス展開は、常にユーザーが直面している「不自由」を解消することから逆算して生まれています。まず、投資の入り口としてのプラットフォームを作りました。次に、増えた株主様との対話を円滑にするための管理ツール(FUNDOOR)を整備しました。しかし、そこで最後に立ちはだかった大きな壁が「流動性」でした。
――未上場株は、一度買えばエグジットまで資金が固定される。それがこれまでの「当たり前」でしたね。
向井氏:そうです。しかし、出口(換金手段)のない投資というのは、いつか必ず息切れしてしまいます。実は「FUNDINNO MARKET」という、未上場株を売買できる仕組みは、創業時から構想していたものでした。投資を呼び込む「プライマリー(発行)」市場を育てるためには、それと対になる「セカンダリー(流通)」市場が不可欠だからです。
――未上場株の流通市場を確立するのは、極めて難易度が高いように感じます。
向井氏:おっしゃる通り、上場株のマーケットとは前提条件が全く異なります。未上場企業は情報を非公開に保つ性質がありますし、取引数も年に数件というスパンです。東証のような仕組みをそのまま持ち込んでも、機能しません。むしろ不動産売買のように、中長期的な視点で見守り、適切なタイミングでつなぐ。そんな独自の設計が求められます。
――国が進める「スタートアップ育成5か年計画」も、大きな追い風になっていますか?
向井氏:実は5か年計画に盛り込まれた内容の多くは、私たちが現場の声を吸い上げ、粘り強く政策提言を続けてきた結果でもあります。例えば、1社あたりの調達額制限(キャップ)の緩和。これが、ミドル・レイターステージの企業を支援する「FUNDINNO PLUS+」の誕生へとつながりました。
――規制緩和が、さらなる成長の呼び水になったわけですね。
向井氏:はい。かつては1社1億円が限界でしたが、規制緩和によってより大規模な、かつ多様な投資家を巻き込んだ調達が可能になりました。入り口での資金調達から、成長過程でのガバナンス管理、そして出口となる流通市場まで、企業の全ステージに対応する「循環するエコシステム」を完成させることこそが、私たちの使命だと考えています。

ステークホルダーとの共創関係が生んだ成功事例
――これまでの歩みの中で、向井さんの心に深く刻まれている「成功」のエピソードがあれば教えてください。
向井氏:数値的な成功で言えば、東証グロース市場への上場を果たしたイノバセル社(2026年2月上場)の事例が挙げられます。彼らはFUNDINNOを通じて多様な個人投資家を味方につけ、その熱量を機関投資家の信頼へとつなげました。まさに私たちの理想を体現するモデルケースです。
また、ある起業家の方が、世界的なピッチイベントへの出場権をかけて戦っていた時の事例も印象に残っています。選定基準の一つに、どれだけ多くの人から応援されているかという「数」が求められる項目がありました。彼は悩んでいましたが、私たちは「株主である投資家の方々に、ありのままの想いを届けてみてはどうか」と提案したんです。
そこで彼はSNSを通じて「このピッチイベントに出たい。企業を大きくしたい。だから投資ではなく、SNSで応援コメントをくれないか」とストレートに発信しました。すると、FUNDINNOを通じて株主になった方々から、あっという間に熱烈な応援コメントが殺到したのです。結果、彼は無事に基準をクリアしました。株主を単なる「金主」ではなく、ビジョンを共有する「同志」として大切にしてきた彼だからこそ、その絆が窮地を救ったのだと思います。
――素晴らしいお話です。一方で、未上場投資には「倒産」という厳しいリスクも常に存在します。
向井氏:その通りです。私たちは常に厳正な審査を行っていますが、ハイリスク・ハイリターンである以上、事業が志半ばで潰えてしまうこともあります。
――投資家にとって、その現実はどのように響くのでしょうか。
向井氏:自分の投資先が倒産するという体験をされた方は、日本ではまだ多くありません。例えば大企業に投資して株価が10%下がることは日常的ですが、未上場企業への10万円がゼロになるというのは、金額の多寡を超えて非常にショッキングな出来事です。だからこそ、私たちは失敗の事実も隠さず、透明性を持って向き合わなければなりません。
――リスクを正しく認識した上での「応援」が必要だと。
向井氏:そうですね。コロナ禍のような不可抗力で苦渋の決断を迫られた起業家も実際にいました。投資家からすれば、期待した成長が止まり、資金が失われるのは極めて苦い経験です。しかし、起業家が何を成し遂げたいかを考えたとき、投資家という「他者の目」から逃げずに向き合い続けることは、成功への条件でもあります。
――失敗のリスクも含めて、投資家と向き合うことが挑戦の本質なのですね。
向井氏:はい。上場企業であれ未上場企業であれ、成功している経営者で投資家と向き合っていない人は一人もいません。私たちは、起業家が資金調達を通じて「公の人」としての自覚を持ち、投資家と共にリスクを背負って進む土壌を育てたい。
単なる資金のやり取りを超えて、成功も失敗も糧にしながら次なる一歩を踏み出せる。そんな強靭なエコシステムが日本に根付いた時、この国は再び、本当の意味での活気を取り戻せると信じています。
――投資を「応援」へと昇華させ、起業家が誠実に歩み、投資家がそれを間近で支える。FUNDINNOが構築したこのモデルは、停滞する日本経済を動かす新たなエンジンとなります。誰もがフェアに挑戦できる未来へ。その歩みは、まだ始まったばかりです。

