2025年4月1日、オリックス・クレジット株式会社は株式会社ドコモ・ファイナンスへとその名を変えました。ドコモグループへの参画という歴史的な転換を経て、巨大なナショナルブランドの一翼を担う存在として、同社はいま新たな航路を切り拓こうとしています。
金融という、目に見えない信用と責任を扱う事業において、ドコモ・ファイナンスは何を変え、何を守り抜くと決めたのでしょうか。AIやデジタルシフトが加速し、効率性こそが至上命題とされる現代。デジタルを最大限に活用しながらも、同社が改めて強調するのは人の温もりと介在価値です。
自らの足で立ち、自らを律する――。岡田靖社長が繰り返す「自立と自律」というこの言葉には、ドコモグループでありながら、独立性と専門性を備えた組織として、未来を自ら創り上げようとする揺るぎない決意が込められています。
本インタビューでは、その信念を胸に最前線で挑戦を続けるリーダーたちの言葉を通じ、変革の真っ只中にある同社が体現する「お金を動かす人」の本質に迫ります。
株式会社ドコモ・ファイナンス 代表取締役社長
株式会社ドコモ・ファイナンス 執行役員 ファイナンス事業部管掌
株式会社ドコモ・ファイナンス 地域営業部長
リーダーとしての哲学と「人」への想い
―― 2025年4月1日、ドコモグループという巨大な組織に参画しました。この歴史的な転換期の真っ只中で、リーダーとして改めて意識するようになったこと、そして今こそ社員に伝えたい価値観とは何でしょうか。
岡田 靖氏(以下、岡田):ドコモグループ参画以来、事あるごとに言い続けてきた言葉があります。それが「自立と自律」です。自らの足で立つという「自立」、自分を律するという「自律」。この二つは、新生ドコモ・ファイナンスにとって最も重要な価値観だと考えています。
背景を申し上げますと、オリックス・クレジット時代は、オリックスグループの特徴だったとは思いますが、一つの事業部のような立ち位置で機能していました。
一方、ドコモグループに参画後は、そのような事業部的な位置づけではなく、一つの独立企業として存在することを求められています。だからこそ、社員一人ひとりがプロフェッショナルとして自律し、指示を待つのではなく、自らの意志で一歩を踏み出す。この意識改革こそが、私がリーダーとして最も浸透させたいと考えている核心です。
―― 新体制への移行にあたり、あえて変えたもの、逆に守り抜くと決めたものを教えてください。
岡田:変えると決めたのは、社員の意識です。先ほど申し上げた「自律」にも通じますが、親会社に頼り切る形ではなく、一つの独立した組織として、自らの責任で意思決定を行うスタンスを大切にしたいと考えました。
そうした意識のもと、まずは、社名変更と並行して、福利厚生、健康保険等の諸制度やITシステムに至るまで、旧来のインフラを刷新し、整備いたしました。
一方で、守り抜くと決めたものは、「お客様へのホスピタリティ」です。デジタルシフトが加速する今だからこそ、その根底にある人の温もりや介在価値は、私たちのDNAとして次世代へ引き継いでいくべきだと考えています。
―― 効率化が最優先される現代において、あえて人の価値を強調されるのはなぜでしょうか。
岡田:金融業界のみならず、現代のビジネスにおいて、テクノロジーの活用は至上命題です。事務オペレーションの効率化・自動化などは徹底して進めるべきでしょう。しかし、我々の事業の本質は、ファイナンスを通じて、お客様の人生の節目や困りごとに寄り添い、支援することにあります。
ニーズを深く汲み取り、温もりのある対応をする。この人の介在が生み出す価値だけは、どれだけデジタル化が進もうとも私たちが守り抜くべき大事なものであり、アイデンティティそのものだと確信しています。
適者生存――ナショナルブランドを背負う覚悟
―― 社名変更から今日までの1年を、あえて一言のキーワードで表すと何になりますか?
岡田:「変革」の1年だったと言えるでしょうね。昨年度にドコモ・ファイナンスへと社名を変えたことは、私たちにとって単なる名称変更以上の、極めて重い意味がありました。
ドコモグループは、自主性を重んじてくれます。しかしそれは裏を返せば、あらゆる決断の責任を自分たちで引き受けるということです。この1年は、その変革に伴う責任の重さと真っ向から向き合い、独立した会社として自立するための土台を固めてきた、非常に濃密な時間でした。
―― 変革の道のりは、決して平坦ではなかったと想像します。大きな決断を下す際、直面した葛藤や逆境をどのように乗り越えてこられたのでしょうか。
岡田:もちろん、変革のプロセスにおいて葛藤は避けて通れません。私も含め、多くの社員は、入社以来オリックスグループという環境に身を置いてきました。そこには居心地の良さや、長年慣れ親しんだ風土もあったはずです。しかし、リーダーとして一番に守るべきは社員の未来に他なりません。そのためにあえて環境を変え、組織を最適化することで未来を拓く必要があると考えました。
「適者生存」という言葉があります。環境の変化に合わせて自らを最適化できない組織は、必ず衰退します。当社は、信販から消費者金融へと業態を変え、貸金業法の改正を背景に信用保証事業へ進出、さらには親和性の高いモーゲージバンク事業へと領域を拡げてきた歴史があります。
こうした時代や事業環境の変化を踏まえると、ドコモグループという新天地でさらなる変革に挑むことは、必然的なことだと考えています。
―― ドコモ・ファイナンスとして歩み出して、社内外の人との関係性や、社員の意識において最も大きな変化を感じる点はどこですか。
岡田:社外へのインパクトは、正直に申し上げて想像以上でした。「ドコモ」という名は抜群の知名度と信頼を誇るナショナルブランドです。「ドコモなら、新しいテクノロジーで何か面白いことをしてくれるのではないか」という期待感と熱量を直接肌で感じるようになりました。
一方で、社内においては「ブランドを守る」という強い規律心が芽生えました。これほど大きな看板を背負う以上、一つの不始末がブランド全体を傷つけてしまう。社員一人ひとりの責任感を以前よりも強く律するようになったと感じています。
現場が体現するドコモ・ファイナンスの矜持
―― 岡田社長が掲げる「自立と自律」という哲学を、現場で具体的に形にされているのが、無担保ローン事業を管掌する森松さんと、地域営業を統括する山崎さんです。まずは森松さん、今の時代、現場での人のあり方において、どのような点を重視されていますか。
森松 亜佳音氏(以下、森松):私は現在、無担保ローン事業を管掌していますが、世の中が効率的な「疎のコミュニケーション」へ流れるのは不可避だと考えています。対面や電話でのやり取りを「密」とするならば、チャットボットやアプリ完結型は「疎」の領域。特に若い世代を中心に、人を介さず自分のペースで完結させたいというニーズは確実に高まっています。
しかし、だからこそ人の介在価値はより研ぎ澄まされるべきだと考えます。融資という行動の裏側には、常に生身の人間による「新しいことにチャレンジしたい」「失敗から再起したい」といった想いがあります。それを受け止め、最終的に「この人なら」と決断を下すのは、やはり人間です。デジタル化できるプロセスを徹底的に効率化する一方で、人と人をつなぐラストワンマイルに責任を持つ。現場では、そうした姿勢を何より大切にしています。
―― 山崎さんは、地域営業の最前線を統括する立場から、現場でどのような人の役割を感じていらっしゃいますか。
山崎 匡司氏(以下、山崎):今のような情報過多の時代だからこそ、逆に人の介在が必要だと痛感しています。インターネット上に情報が溢れ、不確かなものまで混在している今、お客様は何を選べばいいか迷っています。だからこそ、最後はやはり人が重要になります。
AIがどれだけ進歩しても、目の前の情報が本当に正しいのか、そしてお客様にとって最善の選択なのかをプロの視点で精査し、誠実な判断を下せるのは、高い専門性を持つ人だけです。利便性だけでは埋められない信頼の裏付けこそが、私たちが現場で果たすべき最大の役割だと考えています。
―― 競合他社にはない、ドコモ・ファイナンスの社員だからこそ発揮できる強みはどこにあるとお考えですか。
森松:一言で言えば、蓄積された経験値と、いかなる場面でも動じない胆力です。象徴的だったのは、ドコモのコールセンター業務の一部を引き受けた際のことです。私たちのスタッフは、初日からベテランのような落ち着きと的確な対応を見せ、ドコモ側の方々から「何の心配もいらなかった」と驚嘆の声が上がりました。現場で磨き上げた人間としての対応力こそが、他社には真似できない我々の武器です。
山崎:私は圧倒的な団結力と、そこから生まれる組織としてのレバレッジだと確信しています。例えば、新会社の立ち上げ※や大規模なシステムローンチを、数ヶ月という驚異的な短期間でやり抜いてしまう。全員で一気に動いて景色を変えるという凄みのある組織力は、競合他社を凌駕していると思います。
―― 人の力が、実際にお客様を動かし、大きな実を結んだ印象的なエピソードを教えてください。
山崎:住宅ローン「フラット35」事業での躍進です。2017年の参入当初、我々は業界22位という後発組でした。しかし、岡田社長の「1位を目指す」という号令のもと、現場の快進撃が始まりました。
特に転換点となったのはコロナ禍です。競合他社を含めた多くの企業が対面での営業を控える中、岡田社長は「こうした不安な時期だからこそ、お客様に寄り添う必要がある」と決断しました。もちろん、徹底した感染対策と社会情勢への配慮を前提としたうえで、あえて困難な状況下にある不動産会社様やお客様のもとへ、必要に応じて足を運びました。
その真摯な姿勢から「一番苦しい時に、寄り添ってくれて助かったよ」と感謝のお言葉をいただき、深い信頼関係の構築につながりました。結果としてシェアは急拡大し、ついに業界2位へと躍進する原動力となったのです。
岡田:当時の判断は、お客様一人ひとりに向き合う誠実さと、現場で働く社員の力があったからできたものです。
山崎:まだ2位というのが、私にとって心残りです(笑)。現場の総力をもって、近いうちに必ず1位を取りたい。それが今の現場の共通の想いです。
意思決定のものさしとなる羅針盤の策定
―― このタイミングで、「目指す姿」を策定されました。その背景にある経営課題を教えてください。
岡田:私たちの組織は、多様な背景を持った人材の集団です。オリックスのDNAを持つ者、ドコモの流儀を持つ者、そして他業界から参画した者。共通の指針がなければ、社員はどう動くべきか迷い、躊躇してしまいます。
私たちが扱う金融資産やITシステムの価値を最大化させるのは、他ならぬ「人」です。社員が高いモチベーションを持って、迷わず同じ方向へ踏み出すための羅針盤が必要でした。今、このタイミングで我々のアイデンティティを再定義し、共有することこそが、最優先の経営課題だったのです。
―― 「目指す姿」に込めた想いと、行動指針への落とし込みについて教えてください。
岡田:私たちが長年大切にしてきた「実直にやり抜く真面目さ」を肯定しつつ、そこに「変革への挑戦」というエッセンスを加えました。これをスローガン倒れにさせないためにこだわったのが、具体的なドコモ・ファイナンスらしい行動指針へのブレイクダウンです。
例えば、私が頻繁に口にしている「前例踏襲を止めよう」もその一つです。今までこうだったからという思考を止め、常に今の時代に最適かを考える。そのために、自問自答を繰り返してほしいという思いから、"自問自答を促進するような問いかける形式"で行動指針を策定しました。一例を挙げると「可能性を拡げているか?」というように、自ら意識的に行動できるような構成にしました。
また、AIには代替できない高度な判断を行うための「専門性の追求」も盛り込みました。間違いが許されない金融領域で、プロフェッショナルとしてどう動くべきかを明確に定義しています。
―― 社内への浸透については、どのような工夫をされたのでしょうか。
岡田:2026年の年始挨拶では、午年になぞらえて"スピード感が求められる一年だからこそ、共通の羅針盤が不可欠である"ことを、私自身の言葉で強く発信しました。社内ポータルでの発信時も、役員自らが先頭に立って盛り上げる姿勢を見せました。トップがどれだけ本気でこの言葉を信じているかという体温を伝えること。その熱量こそが、組織浸透への第一歩だと考えています。
ただし、ビジョンというものは一度発信すれば浸透するという性質のものではありません。そこからが本当のスタートです。経営の言葉を社員の血肉にさせるためには、リーダー自らが語り続けることが何より重要です。
具体的には、今年の5月以降、私自身が全国の拠点を回る「タウンホールミーティング」を実施します。全国津々浦々、現場で働く社員たちと膝を突き合わせて対話を重ねる。泥臭い草の根活動のようですが、これ以外に浸透への近道はないと信じています。
組織の熱量を高める管理職の役割
―― 現場の社員が行動指針を自分事として捉えるために、言葉の翻訳や具体化において工夫している点は何ですか?
山崎:現場の人間、特に若い世代にとっては、ビジョンと言われてもどこか遠い世界の話のように聞こえてしまいがちです。だからこそ、私のような立場が、経営の言葉を噛み砕いて伝える必要があります。
例えば、岡田社長の言う「自律」を、私はあえて「一回、自分で面白がってやってみないか」という言葉に置き換えたりします。私自身、かつては「新聞を読め」と言われて育った世代ですが、今の若い世代に同じやり方を押し付けても響きません。
それよりも、私が気になった業界のニュースを「これ、どう思う?」「お客様にどうアタックする?」とメールで投げかける。まずは一つの歯車が動くきっかけを作るんです。自ら考え、動き出し、小さな成功を収めた時に社員の顔つきが変わる。「これが自律か!」と合点がいく瞬間ですね。その連鎖こそが、組織を動かす力になると信じています。
森松:デジタルとアナログの使い分けも重要です。事務処理をAIで効率化することは、単に楽をするためではなく、お客様と向き合う時間を生み出し、介在価値を発揮するためだと、目的を繰り返し伝えるようにしています。
テクノロジーが進歩すればするほど、生身の人間である自分たちが「何をすべきか」を問い続けることで、現場の社員も「自分たちがお客様を動かしているんだ」という手応えを、感じられるようになるのだと思います。
―― お二人のような「行動指針の翻訳者」が現場にいることは、組織にとって大きな強みですね。岡田社長は、管理職の方々を巻き込み支えていくために、経営者としてどのような働きかけをされていますか。
岡田:組織を動かす鍵は、間違いなく管理職(ミドルマネジメント)にあります。彼らが納得していなければ、現場に熱が伝わるはずがありません。ですから、行動指針を策定するプロセス自体にも、あえてミドルマネジメントの意見を多分に取り入れました。
また、人事制度との連動も不可欠です。数字という結果だけでなく、そのプロセスにおいてどれだけ「ひたむきに挑戦」したか。そこを管理職がしっかりと把握し、フィードバックするかが重要だと考えています。そのために、人事制度の改訂に向けた動きも始まっています。
外資系のように報酬だけで動かすのではなく、日本企業らしい熱量の高め方を重視し、管理職が自ら「この道を進んでいけばよいんだ」と確信を持って語れる状態を作る。これが、私が今、最も腐心している点です。

「お金を動かす人」としての本質
―― ドコモ・ファイナンスが社会で果たすべき「お金を動かす役割」の本質と、金融という責任ある領域を扱ううえで大切にされている信念を教えてください。
岡田:お金というものは、究極的には価値の交換手段であると考えています。お金を貯めること自体が目的ではなく、その先に何かを実現したいという真の目的、つまり「想い」があるはずです。
例えば、自己啓発のために投資したい、キャリアアップを目指して学びたい。けれど、若いうちは手元に資金の余裕がない。そうした方々の背中を押し、可能性を拡げるお手伝いをすることこそが、私たちの存在価値であり、社会的な意義です。
従業員一同、そこにある社会的意義を正しく理解し、高い規律を持って向き合うこと。それが、金融に携わる者の揺るぎない信念であるべきだと思っています。
―― 今後、貴社ではどのような人が活躍し、どのような未来を築いていきたいか。これからを共に創る仲間たちへのメッセージをお願いします。
岡田:私が求めるのは、第一に主体性を持って動ける人、そして常に疑問を持ち続けられる人です。前例踏襲を良しとせず、今ある仕組みに対して「もっと改善できるのではないか」と自問自答し、変化を恐れずに飛び込める人こそが、これからのドコモ・ファイナンスを創っていくと確信しています。
私たちは、時代の要請に合わせてしなやかに変化し続けてきました。この適者生存の精神こそが、私たちが生き残ってきた理由です。変化を止めた瞬間に、組織の衰退は始まります。
デジタルと金融が融合していく中で、新しい領域は無限に広がっています。変化を楽しみ、自らの意志で未来を切り拓く。そんな「自立と自律」の精神を持つ仲間と共に、私たちはまだ見ぬ新しい金融の形を目指していきます。


