
事業成長のスピードが加速する一方で、多くのベンチャー・成長企業がぶつかる壁がある。管理職育成だ。準備期間なく登用され、参照できる型もないまま、プレイヤー業務を抱えたままマネジメントを求められる──大企業とは質の異なる、この「ベンチャー・成長企業特有の管理職育成の難しさ」を、現場ではどう捉え、どう乗り越えているのか。
「ベンチャー的環境における組織運営のOS」をつくることを掲げ、300社以上の組織開発を支援してきた管理職育成支援サービス「マネディク」。今回は、同サービスを運営するアクシス株式会社 代表取締役・末永雄大氏に、近年の組織課題の変化と、管理職育成を内製化するという考え方について、お話を伺いました。
アクシス株式会社 代表取締役
YouTubeチャンネル「末永 雄大 / すべらない転職エージェント」の総再生回数は1,800万回以上。著書「成功する転職面接」「キャリアロジック」。
現在、iU 情報経営イノベーション専門職大学 客員教授、一般社団法人日本人材紹介事業協会(人材協)事業組織委員、EO Tokyo Central(起業家・創業者の世界的ネットワーク)31期コンテンツ理事/起業家ペイフォワード担当としても活動中。
マネディクとは何か──「ベンチャー的環境における組織運営のOS」をつくる
――はじめに、マネディクがどんなサービスなのか、どういった企業の、どんな課題に応えるものなのかを簡単にご紹介ください。
末永 雄大氏(以下、末永氏):マネディクは、一言で言うと「ベンチャー的環境における組織運営のOS」をつくる会社です。
私たちは「変化とスピードの多い環境」を「ベンチャー的環境」と呼び、そこで組織を回すためのメソッドを言語化・体系化してきました。これまで延べ300社以上の組織開発を支援する中で見えてきたのは、属人的になりがちなマネジメントを、経営と管理職が共通言語で語れる状態に変えることの重要性です。
その中核となるのが、経営と管理職の間に共通言語と対話の機会をつくり、自社の中で管理職を育てられる状態をつくる「マネディク」というサービスです。
加えて最近では、この共通言語をマネジメントの上下両面に広げる形でサービスを展開しています。育成される側であるメンバーに向けては、自走して成果を出せるようになる「部下力」プログラム、経営者の頭の中にある「当たり前」の基準を、組織全体の「当たり前」として言語化・浸透させていく伴走プログラムを通じて、管理職を挟んだ両方からマネジメントの質を底上げしています。
「あいつはプレイヤーとしては優秀なのに、マネージャーとして機能していない」──いま経営者に何が起きているか
――近年、ベンチャー・成長企業からの「管理職育成」に関する相談や課題感は、以前と比べて変化していますか。具体的にどのような声が増えているか、現場で感じる変化を教えてください。
末永氏:ベンチャー組織にとって、管理職育成は、重要度は認識されていても事業インパクトを優先する中で後ろ倒しになりやすいテーマでした。それが直近では、管理職の機能不全に対する切迫感が明らかに強まっています。
背景にあるのは、事業モデルも組織も変化のサイクルが以前より短くなっていることです。
以前であれば「チームをまとめて成果を出す」で事足りていましたが、今は事業の方向転換や優先順位の変更に合わせて、マネジメント自体をアップデートし続けることが求められています。
ベンチャーの管理職は、プレイヤーとして突出した成果を出してきたエースがそのまま就くケースがほとんどです。この人材に、いかにマネジメントの技能を後付けで持たせられるか──これが今、経営の重要テーマになっていると感じています。
実際、経営者との会話でも「あいつはプレイヤーとしては優秀なのに、マネージャーとして機能していない」という悩みは、以前よりもはっきりと、かつ早い段階で相談として出てくるようになりました。
もう一つ増えているのが、「管理職の育成を外部の一律研修ではなく、自社の実態に合わせた形でやりたい」という声です。一般的なマネジメント理論だけでは、変化の速い現場では機能しない──そのことに気づいた経営者・上級管理職から、自社の事業フェーズや価値観に即した「自社なりのマネジメントの型」を作りたい、というニーズが増えています。
――大企業の管理職育成と、ベンチャー・成長企業の管理職育成とでは、何がどう違うのでしょうか。「ベンチャー・成長企業特有の難しさ」を教えてください。
末永氏:違いは、突き詰めると次の2点に集約されます。
- 登用の準備期間があるかどうか
- 役割の輪郭が決まっているかどうか
この2つが重なることで、現場では「学ぶ前に実践が始まる」という切迫した状態が生まれます。
大企業における管理職への登用は基本的に選抜と準備がセットです。候補者研修やアセスメントを経て、早ければ数年前から「そろそろマネージャーだね」という空気が共有されています。
一方、ベンチャーではこうした準備はほぼありません。5人だった部門が数ヶ月で20人になるようなペースも珍しくなく、その拡大の途中でプレイヤーがある日突然マネジメントを任されます。準備期間がないだけでなく、そもそも型を習っていない人がいきなり管理職として機能することを求められる、という二重の負荷がかかっています。
もう一つの違いが、任される範囲の広さです。大企業の管理職は、人事評価・予算管理・育成それぞれに前任者のやり方や社内のフォーマットがあり、「型」の中で学ぶことができます。
一方、ベンチャーの管理職は、採用も評価も予算も、時には事業戦略の一部も前任者のいないまま本人の裁量に委ねられます。マネジメントの範囲そのものを自分で定義しながら、同時にそれを実行しなければなりません。
学んでから実践するのではなく、実践しながら学ぶことすら難しい──それがベンチャー特有の切迫感の正体だと感じています。

管理職を「増やす」ことと「機能させる」ことは、別の問題──よくある3つの選択肢が抱える落とし穴
――管理職人材を増やそうとするとき、多くの企業は「外から採用する」「外部研修を受けさせる」「実績ある人を登用する」のいずれかを選びがちだと思います。それぞれ、なぜうまくいきにくいのでしょうか。
末永氏:前提として、管理職を「増やす」ことと「機能させる」ことは別の問題です。3つのアプローチは「人数を増やす」ところまでは効果がありますが、「機能する管理職を増やす」ところまでは、単独では届きにくいのが実情です。
外部人材を登用する場合は、前職での実績やマネジメント経験の「見栄え」で判断してしまいがちで、自社へのフィットや入社後の権限・期待のすり合わせが曖昧なまま進んでしまいます。
結果、本人は前職のスタイルをそのまま持ち込もうとし、組織側は自社に柔軟に適応する前提で見ている、というケースが少なくありません。すり合わせる場を意識的に設けない限り、ズレは埋まらないまま放置されます。ここを埋めるオンボーディングの設計まで含めて初めて、外部採用は機能すると考えています。
同じ「接続されないまま終わる」問題は、外部研修にも起こっています。一般論を「インストール」しただけで終わる研修が多いですが、本当に必要なのは、これまでの自分の当たり前をいったん手放す「アンラーン」の機会と、自社に対する解像度の高い理解です。
一方、実績ある人を登用するケースは、そもそも渡すものがない、もっと手前の問題です。一番多いパターンですが、同時に一番失敗も多いと感じています。
理由はシンプルで、「この役割で何を期待しているか」という期待値のすり合わせと、「どうマネジメントするか」という技法の提供、この2つが単純に不足しているからです。
優秀なプレイヤーほど感覚的に正しい判断ができるため、経営側も任せてしまいがちですが、感覚は他人には伝わりません。期待値と技法の認識が合っていないまま登用すると、その管理職個人のキャパシティに組織の成長が依存する状態になってしまいます。
――特に「外部研修」について。手軽に導入できる一方で“根付かない”“一過性で終わる”と言われることがあります。なぜそうなってしまうのか、率直なお考えを聞かせてください。
末永氏:外部研修が根付かない理由は、大きく4つのポイントが重なっていると捉えています。
①研修と自社の文脈が切り離されている
一般的なマネジメント理論やフレームワークは、どの会社にも当てはまるように作られている分、裏を返せば、どの会社にも深くは刺さりません。「1on1のやり方」を学んでも、自社のどんな事業フェーズ・どの部下に対して使うのか、という接続部分は本人任せになってしまいます。
②行動への落とし込みが足りない
研修の場で「なるほど」と腹落ちしても、「自分は明日から何を変えるのか」という具体的な行動レベルまで翻訳できていないことが原因です。知識としては理解しているけれど、明日から何をどう変えればいいのか分からないまま現場に戻っているため、「良い研修だった」で終わってしまいます。
③経営や上席との共通言語になっていない
研修を受けるのは管理職本人だけで、その上司である経営陣や上席は内容を知らないまま、というケースが大半です。すると、管理職が研修で学んだことを実践しようとしても、上席がそれを評価する軸を持っておらず、本人だけが孤立して頑張る状態になりがちです。
④単発で終わり、サイクルにならない
上席が内容を把握していない場合、フォローする役割を担えないので、1ヶ月後、3ヶ月後といったサイクルで振り返る機会も自然発生せず、学びが時間とともに薄れていく一方になってしまいます。
――「管理職育成に取り組む際の3つの壁(教えられる人材がいない/時間をかけられない/取り組みが散発的で仕組み化できない)」の中でも特に根深い・見落とされがちなのはどれだと感じますか。
末永氏:表面的には「時間がない」「仕組み化できない」と語られがちですが、根っこにあるのは「教えられる人材がいない」ことだと思っています。時間があっても、何を伝えるべきか分かる人がいなければ使われませんし、仕組み化も設計できる人がいて初めて成立するからです。
正直なところ、「自社をよく知り、マネジメントが形式知化されていて、それを人に教えられる人材」が社内に自然発生することは、ベンチャーの環境では望みにくいと思っています。事業を伸ばすスピードと、教える人材が育つスピードが、そもそも噛み合うようにできていないからです。
だからこそ、私たちのような外部の存在が介在する価値があると考えています。第三者が自社の実態を理解した上で、教えるための型を一緒につくる。その介在によって、歯抜けになっているスキルセットを時間をかけずに埋めにいく──これが、私たちの存在意義だと思っています。

マネジメントは知識ではなく、組織文化そのもの──内製化こそが、遠回りに見えて最も近道
――マネディクは「内部で育て続ける」ことを重視されています。なぜ“内製化”が、育成の近道になるのでしょうか。
末永氏:私たちが「内部で育て続ける」ことを重視しているのは、マネジメントは知識ではなく、組織文化そのものだからです。研修を外部に委ねることはできますが、組織文化そのものを外注することはできません。
日々の1on1やフィードバック、仕事の任せ方の積み重ねで管理職が育っていくため、育つ環境そのものが社内になければ、良い研修を受けても時間とともに元のやり方に戻ってしまいます。
300社以上の組織を支援してきて感じるのは、成果が出続ける企業には共通点があるということです。それは、「誰か一人が優秀だから」ではなく、管理職同士が学び合い、フィードバックし合い、次の管理職を育てるサイクルが組織の中にあることです。
だから私たちは、外部の立場でノウハウを提供することだけを目的にはしていません。最終的なゴールは、私たちがいなくても、自社だけで管理職を育て続けられる状態をつくることです。そのために重視しているのが、「共通言語をつくること」「学び続ける仕組みをつくること」「フィードバックできる人材を社内に増やすこと」の3つです。
変化が速いベンチャー企業だからこそ、その変化に合わせてマネジメントも進化し続けなければなりません。内製化こそが遠回りに見えて、最も再現性が高く、持続的な育成の近道だと考えています。
――「共通言語の獲得」「トレーニングの習慣化」「フィードバックできる人材の養成」は、それぞれが組織に何をもたらすのでしょうか。
末永氏:3つとも独立した効果を持ちますが、根っこで繋がっているのは「組織運営のスピードが上がる」ということです。
共通言語の獲得がもたらすもの
管理職同士、あるいは経営と管理職の間で、マネジメントについて話すための言葉が揃います。それまで各人が自分の感覚に基づいた言葉で語っていたところに共通言語ができると、説明やすり合わせに使っていた時間をそのまま浮かすことができます。
導入企業で分かりやすく起きる変化は、経営メンバーやマネジメント層が、以前より同じチームとして機能し始めることです。共通言語を持つことで、経営の意思決定がそのまま各チームに翻訳される速度が上がり、「経営が言っていることと、現場での解釈がズレる」という、事業のスピードを削っていた摩擦が減っていきます。
トレーニングの習慣化がもたらすもの
単発の研修と違い、定期的に立ち戻る機会があることで、学びが一過性で終わらず、行動として積み上がっていきます。
マネジメントについて話す・振り返るという行為自体が、日常の一部になり、「自分のチームさえ良ければいい」という発想から「会社全体として同じスピードで動こう」へと視座が広がることで、事業の方向転換が起きても、組織全体が同じスピードでついてこられるようになります。
フィードバックできる人材の養成がもたらすもの
フィードバックの技法を持った人材が組織内に増えると、日々のフィードバックの質と速度が上がります。「なんとなく言いにくいから飲み込む」「感覚的に伝えて誤解される」という状態が減り、問題が早い段階で表面化するため、経営が気づいた時には手遅れ、という事態が減ります。
導入企業で特徴的なのは、マネジメント観点でのロールモデルが社内に生まれることです。「あの人のフィードバックの仕方は参考になる」というマネージャーが一人でも現れると、周囲の管理職もそのやり方を真似るようになり、自然と型が組織内に伝播していきます。これができると、新しく管理職になった人材の立ち上がりも早くなります。
離職率20-30%から5%へ──「答えを求める」から「自分で考える」への転換で組織はどう変わったか
――「見て見ぬふりの組織」が数ヶ月で「自走する組織」に変わった事例を教えてください。何が転機になったのでしょうか。
末永氏:象徴的なのは、拡大フェーズにあるWebマーケティング会社のケースです。
平均年齢20代後半、業界未経験からプレイヤーとして成果を出した人材が早期にマネジメント登用されていた組織で、マネジメントの型が全くありませんでした。成果を出したプレイヤーを次々とマネージャーに登用した結果、「俺は偉いんだから言うことを聞け」と抑えつけるタイプと、嫌われるのが怖くて何も言えないタイプへの二極化が起き、離職率は20~30%という状態が続いていました。
過去に外部からマネジメント経験者を採用したこともあったそうですが、文化の不一致で失敗した経験があります。「経験者を連れてくれば解決する」という発想ではうまくいかないことを、組織として身をもって知っていました。だからこそ、生え抜きの若手社員に、共通言語としての「型」を身につけさせる方向を選んだわけです。
現場で最初に起きたのは、「答えを求める」から「自分で考える」への転換です。導入初期は、伴走していたコンサルタントに答えを求める、1問1答の状態でしたが、数ヶ月後、あえて伴走の手を離し「自分たちだけでセッションを回す」フェーズに入れたところが転換点になりました。答えを教えてもらえなくなったことで、社員同士が主体的に議論するようになり、納得度が一気に上がったといいます。
もう一つ、現場でよく語られていたのが「タスクを渡すのではなく、役割を渡す」という言葉です。以前は「この資料作っておいて」とだけ依頼して、出てきたアウトプットに不満を抱える、ということが頻発していました。それが、「お客様を最高に感動させるための資料を作って」と、目的を含めた依頼の仕方に変わったことで、部下から返ってくるアウトプットの質そのものが変わりました。
結果は数字にもはっきり表れました。離職率は20~30%から5%まで低下。業績は前期比150%成長。社内エンゲージメントのスコアも、偏差値57から73(上位1%水準)まで上昇しました。「人が辞めない組織を作れば事業は伸びる」という仮説が、そのまま数字として実現された形です。
「管理職を育てることは、組織を育てること。そして、働く人の幸せを増やすこと」

――アクシスは「働くすべての人を幸せにするワークテックカンパニー」を掲げています。管理職育成というテーマは、この大きな思想とどうつながっているのでしょうか。
末永氏:私たちアクシスは「働くすべての人を幸せにするワークテックカンパニー」を掲げていますが、その中でも管理職は、働く人の幸福度を最も左右する存在だと考えています。
どれだけ良い制度や福利厚生があっても、日々最も多く接する上司との関係性が悪ければ、その会社で働くことは苦しくなります。実際、退職理由としても「仕事内容」より「上司との関係」や「マネジメントへの不満」が挙がるケースは少なくありません。
一方で、良い管理職がいる組織では、人は挑戦できます。失敗から学べます。自分の成長を実感できます。そして、その積み重ねが仕事のやりがいや幸福感につながっていきます。
管理職は、一人ひとりの働き方を変え、組織文化を変え、結果として会社全体の生産性や競争力も変えていきます。そして、その変化を外部に依存し続けるのではなく、自社で育て続けられる状態をつくることが、本当の意味で強い組織だと思っています。
管理職を育てることは、組織を育てること。そして、働く人の幸せを増やすこと。その思想が、私たちの事業の根幹につながっています。
――最後に、いま管理職育成に悩んでいる経営者・人事の方に向けて、伝えたいことがあればメッセージをお願いします。
末永氏:管理職育成は、売上や採用のように、今日・今月の数字に直結するものではないため、事業が忙しいほど後回しになりがちなテーマです。
しかし、即戦力採用は幻想であることが少なくありません。優秀な管理職人材は市場に多く存在するわけではなく、採用できたとしても、その人が自社の事業フェーズや組織文化、マネジメントスタイルに適応し、期待通りに機能するとは限りません。
私たちが300社以上の組織を支援してきて感じるのは、管理職育成を後回しにした組織ほど、結果的に事業成長のスピードが鈍ってしまうということです。
管理職は、組織のボトルネックにも、レバレッジポイントにもなります。管理職が育てば、経営者一人に集中していた意思決定や育成の役割が分散され、組織は自走し始めます。
だからこそ、「管理職を増やすこと」ではなく、「管理職が育ち続ける仕組みをつくること」に投資してほしいと思っています。管理職育成はコストではなく、未来の事業成長への投資です。
5年後、10年後も成長し続ける組織をつくるために、ぜひ「自社で管理職を育て続ける仕組みづくり」を経営の重要テーマとして考えていただければ嬉しく思います。