新型コロナウイルスによる先行き不透明感や在宅勤務の増加に伴い、新たに証券口座を開設する人が増えている。資産運用に関心を持つ人が増える中で、FXにも改めて注目が集まっているという。しかし、FX市場は多くのトレーダーが退場を余儀なくされる厳しい世界でもある。

学生時代にFX市場デビューを果たして以来、そんな過酷なFX市場をサバイブし、現在も個人トレーダーとして活動しているのが田畑昇人氏だ。デビュー作である「東大院生が考えたスマートフォンFX」で10万部超えを果たし、昨年末に「武器としてのFX」を上梓した田畑昇人氏に話を聞いた。

※2020年9月14日に配信した記事を再配信しております。

田畑昇人(たばた・しょうと)
大学3年生からトレーディングを始め、わずか50万円を9か月で1000万円に。大学院在学中に刊行した『東大院生が考えたスマートフォンFX』が10万部を超えるベストセラーに。FXを始めとするトレードで生計をたてる。
最新刊「武器としてのFX」が、Amazonベストセラー(最高総合12位)になるなど、好評発売中。 オフィシャルサイト:田畑昇人公式FXブログ

きっかけはキャッシュバックキャンペーン

(画像=田畑氏の最新刊「武器としてのFX」)

―最初にFXトレードを始めたきっかけを教えてください。

私がトレードを始めたのは、大学生の頃でした。当時、「口座開設して1Lot取引すれば、1万円キャッシュバック」といったキャンペーンが多くの会社で実施されていたのです。

大学生にとっての1万円はアルバイトの日給です。「キャッシュバックしてもらえるのならば、とりあえずやってみよう」と各社の口座を開設しました。キャッシュバックしてもらったら、トレードは止めるつもりだったのですが、いつの間にかのめり込んでしまったんです。

始めたばかりのころは、「ポジポジ病」にかかり、資金をすべてとかしてしまうという典型的な初心者の失敗も経験しました。そして、その損失をどうにかして取り戻そうと、勉強を始め、自分の中で様々な仮説を立ててトレードし始めたのです。

私がトレードを始めたのは、東日本大震災の前後で、ドル/円のレートは80円代というの超円高時代でした。ドル/円のボラティリティ(価格変動)があまりない時代でゴトー日(5と0がつく日)にトレードを行うという戦略が機能していたのです。

ゴトー日は貿易の決済が集中するため、海外企業にドルを支払う企業は、ドルを買わなければなりません。銀行が1日の取引を決めるのは朝9時55分ですが、そこに向かって、ドル/円は上昇しやすいという傾向があったのです。そのため、私は、ゴトー日は朝早く起きてドルを買い、9時55分前に売るという戦略をとりました。

低ボラティリティな状況の中で、ひたすら逆張りをして50万円から1000万円まで資金を増やし、無事逆転することができたのです。

―当時と今では、トレードスタイルを変えているとのことですが、スタイルを変えた理由を教えてください。

自分が最初に勝っていた時代は、低ボラティリティで、逆張りが機能していました。しかし、アベノミクスのようなトレンドが出た場合、逆張りはとても効率が悪いのです。

昔から金融商品全般で言われている格言の一つに「トレンドをフォローしろ」ということがあります。私もトレンドをフォローしようと試みたことがありますが、途中で違和感を覚えました。なぜなら、トレンドはそれほど頻繁に出るものではないからです。

市場の85%程度はトレンドが出ていない状態で、トレンドが明確になるのは、15%程度だと私は思います。つまり、古典的で愚直なトレンドフォローをしていると結局、資金が減ってしまう可能性が高いのです。

こうした状況の中で、試行錯誤した結果、VIX指数や通貨別VIXに注目する現在のスタイルへと変化していったのです。

―田畑さんは、トレードの再現性を高めるためにかなり試行錯誤されていますね。

私は個人投資家であり、給料を貰っているという立場ではありません。だからこそ、再現性がないものに、人生をかけることはできないのです。

自分のトレードの背景にある理論を人に説明できなければ、運だけで勝っているという可能性もあります。私はそうならないように、詰将棋をしている感覚でトレードしています。

例えば、FOMC、ECBといった金融政策にかかわるイベント後の数日間に、何かサプライズがあれば、その通貨ペアの出来高は絶対に増えます。これは株に例えると、決算の前後を狙うイメージです。出来高が多いうちに仕掛けて、出来高が細くなってきたら抜ける。これを為替でやっているというイメージですね。

そのため、スプレッドが狭いドルストレートを中心に取引してます。ポンド/豪ドルのような参加者が少ない通貨ペアでテクニカル分析と言われても、個人的にはピンとこないですね。

―出来高に注目するのはFXでは珍しい手法では?

株のような他の金融商品で行われているアプローチをFXでやっているだけという感覚もあります。

株においては出来高に基づいて上値のメドを予測するといったアプローチがあります。FXはOTC取引なので厳密には出来高を確認することはできません。しかし、NDD業者の出来高情報やIV(インプライドボラティリティー)から、ある程度推定することはできます。そのため、こうした数字を利用して、株と同じようなロジカルなアプローチをすることができるのです。

個人がプロに勝てる唯一のポイントは“スピード”

(画像=PIXTA)

―コロナショックを経た現在のトレードの状況を教えてください

私の現在のトレードスタイルはコロナショックなど、ある程度ボラティリティが高い局面を狙い撃ちするイベントトレードで、それ以外はあまりトレードしていません。

トレード回数を増やすと、スプレッドを上回る期待値を得なければなりません。スプレッド負け、手数料負け、オーバートレードで資産を減らすことは避けたいので期待値が低い状況ではトレードしないようにしています。

個人投資家の良いところは、自分の好きな時にポジションを立てることができる点です。機関投資家と違って、上司などに確認をとる必要がないので、迅速かつ機動的に動くことができます。ここが、個人がプロを出し抜くことができる唯一のポイントだと思いますね。

現在、私は「期待値が高い時に取引する」というルールを設けています。今は「コロナで悪材料が出ても下がらない」という状況なので、コロナショックを材料にトレードすることはしていません。

FXのような証拠金取引の良いところは、一つのイベントを消化したら休めるというところです。株であれば、毎朝9時までに起きて値動きを追う必要がありますが、自分はそういうことはやらず、一年の間で期待値が高い局面は相場に向き合って、それ以外はある程度流すスタイルにしています。

自分より成功しているトレーダーはたくさん見てきましたが、自分より自由に生活しているトレーダーは、それほど多くないと思いますね。

―田畑さんは書籍の中で、損切りの重要性についても強調していますね。

私には「損失を限定しない」という感覚がよく理解できません。会社経営でも新規事業で利益が出なければ、その部署は解散するはずです。トレードでポジションを立てることは、新規事業の立ち上げと同じことですし、当然リスクとリターンのバランスを考える必要があります。

FXはレバレッジがかかっているので、損切りの重要性はより高いと考えられます。FXは短期のボラティリティに対してレバレッジをかけているので、損切りをしないというのは、破滅に向かっているということです。だからこそ、損切りに関してはよりシビアに考える必要があると思いますね。

―初心者にむけて取引をする上でのアドバイスはありますか?

まずは、きちんとPDCAサイクルが回せるかどうかが重要だと思います。出来高がそれほど多くない日のチャートデータを検証しても、それはただのノイズの可能性があります。

私は、ボラティリティの高い、出来高が多い局面でなければ、トレードをしても利益を出すのは難しいと考えています。なので、重要経済指標後など出来高が多いであろう時間・日にちの後で、取引の試行錯誤をすることによって、上達も早くはなると思います。

ある意味、カジノと同じで、「出来高が多い状態」というのは参加者がたくさんいるとうことです。出来高が少ない閑散期は、テーブルに人がおらず、カモる相手が見つからない状態です。そうなれば、自分がカモられることになってしまうというわけです。

もちろん、ビギナーズラックで利益を出すことができる人もいるでしょう。仮想通貨バブルを見ていて感じたことですが、ラッキーでお金を手にしたとしても、結局全部溶かしてしまう。2017年仮想通貨で儲かった人たちの多くも翌年には消えていきました。なので「勝つこと」と「勝ち続けること」はまったくレイヤーが違う話だと思いますね。

現代人にとって情報はジャンクフード

―「勝ち続ける」には、トレードスタイルや理論も重要ですが、自身のメンタルをコントロールすることも重要だと思います。メンタルの状態を維持するために、意識していることはありますか?

自分は、現代人にとっての情報はジャンクフードだと考えています。ずっとチャートを見ていると、どうしても「もっといけるんじゃないか」と思ってしまう。ニュースやSNSを見ると他人との比較が生まれます。「いくら稼いだ」「これを買った」と言った情報が嫌でも目に入ってきてしまいます。

そうした情報から離れることによって、冷静になることができます。情報の波に溺れず、考える時間ができるのです。

FXはお金に直結することなので、どうしても熱中してしまう部分があります。適度に距離をおくことによって、自分を見つめ直す時間ができ、それが自身を律するということに繋がっていると思います。実際に、ずっとチャートに張り付いてた時よりも、現在の方がトレード回数は減っていますが全体のパフォーマンスは良くなっていますね。

周囲のトレーダーを見ていてもそういう方が多いです。FXは動く時と動かない時がはっきりしている金融商品なので、現物株のように「いま割安だからこの価格で拾っておかなきゃ」といったように板に張り付いている必要はありません。

―FXトレードといえば、「チャートとにらめっこ」といったイメージもありますが。

私自身も、チャートに張り付いていた時代がありました。なので、初心者がいきなり情報の断捨離といっても難しいとも思います。下積みではないですが、チャートとにらめっこして、PDCAを回すという経験も必要でしょう。

ただ、私生活とのバランスや、全体パフォーマンスを考えれば、それをやり続ける必要がないとは思いますね。トレードスタイルは千差万別ですし、正解は人それぞれです。

―最後に、初心者におすすめのFX会社はありますか?

自分は、YJFXのCymo(サイモ)というアプリが使いやすいと思っています。YJFXはFXに特化しているので、証拠金を移動する必要がない点も初心者にはありがたいのではないでしょうか。

株式投資をやるにしても、グローバルのお金の流れは必ず意識する必要があります。FXを始めれば、嫌でもお金の流れを意識せざるえないので、様々な金融商品のつながりを理解する意味でも、とても面白い商品だと思いますね。

武器としてのFX
『東大院生が考えたあのスマートフォンFX』から4年。アップデートを重ねた新手法&理論、ついに完成!「通貨ペアの偏り」を読み、ファンダメンタルズから旬の通貨を選定。VIX指数でトレンドの加速感を測る―運に左右されないトレードをするための思考術。
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