コロナ禍や「老後2000万円問題」などの影響により、投資への関心が高まっている。株式投資などと比較すると、ハードルが高いイメージのあるFXだが、その魅力はどのような部分にあるのだろうか。

FX取引の魅力や、始める上で注意すべきポイントなどについて、外為どっとコム総合研究所調査部長の神田卓也氏に話を聞いた。

神田 卓也(かんだ・たくや)
神田 卓也(かんだ・たくや)
株式会社外為どっとコム総合研究所 取締役 調査部長 上席研究員
1987年福岡大学法学部卒業後、第一証券(株)(現三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社)を経て、1991年(株)メイタン・トラディション入社。インターバンク市場にて、為替・資金・デリバティブ等の取引業務を担当し、国際金融市場に対する造詣を深める。2009年7月(株)外為どっとコム総合研究所入社。著書に「いちばんやさしい為替の教本(インプレス)」、書籍監修に「お金の話に強くなる 為替のしくみ(スタンダーズ)」がある。
Twitter:@KandaTakuya

レバレッジだけではないFXの魅力

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(画像=株式会社外為どっとコム総合研究所の神田卓也氏)

――コロナ禍以来、資産運用に興味を持つ方が増えています。FXについても関心が高まっている実感はありますか。

これは個人投資家などと、SNSでやり取りする中で感じることなのですが、FX取引の主力であるドル/円以外の通貨に対する興味・関心がここにきて非常に高まっているなという印象を受けています。

イギリスポンドやオーストラリアドル、さらにメキシコペソや南アフリカランド、トルコリラといった高金利通貨への問い合わせが多くなってきているのです。

外為どっとコム ホームページ「会社案内」より
(出所=外為どっとコム ホームページ「会社案内」より)

また、親会社である外為どっとコムの新規口座設定の伸びや新規の取引が昨年の春以降増えているという印象はあります。家にいる時間が長くなったことで、通貨取引やFXで資産運用を始める動きが増えているのではないでしょうか。

――FXの魅力は、どのようなところだとお考えでしょうか。

まず、FXはレバレッジが25倍(個人投資家の場合)かけられて、元手が少ない金額でも比較的大きな金額の取引ができることが挙げられます。それらに加えて、取引を行うことによって海外情勢への興味・関心が深まるのも大きなポイントです。

実際に、お客様のアンケートでもそうした声があります。例えば、メキシコやトルコといった国に関するニュースは、普段の生活ではあまり目にする機会はありませんが、FXの取引を始めたことによって、そうした国々や国際情勢への興味が高まったと感じている方も多いです。そうした意味では、為替を通じて「世界と繋がれる」というところも魅力なのだと思います。

これらに加えて、値動きの大きさも魅力の一つでしょう。ただ実際のところ、為替というのは、値動き自体はそれほど大きくないのです。もちろん瞬間的な動きはありますが、1日1%を超えるような為替変動があるケースは稀なんです。それでも変動が大きいと感じるのは、やはりレバレッジがかかっている点が大きいと思いますね。

FX取引で成功するためのポイントとは

FX,通貨
(画像=PIXTA)

―株であればPERやPBRなどを参考にしますが、FXの場合、どのような点に注目すれば良いのでしょうか。

株式投資のPERやPBRのように、為替が割高か割安か示すインジケーターがあればとても楽なのですが、FXには残念ながらそのような指標がありません。物価格差を物差しにするという考え方もありますが、これは学術的な面が強くてあまり普段の取引の参考になる指標ではないでしょう。

さらにFXを難しくしているのは交換レートです。例えば、ドル/円の交換レートの場合、ドルの事情で上下しているのか、それとも円の事情で上下しているのか、を考える必要があります。これだけでも、4通りの組み合わせがあるので、「これだけ見ていれば大丈夫」というものはない、という答えになってしまうのです。

そのため私は常日頃から、為替は「浅く広く」というスタンスが重要だと言っています。そのときどきで為替市場のテーマが変化しますので、様々なことにアンテナを張っておかないと対応できないのです。

さらに、マイナー通貨になってくると、より値動きの読みが難しくなってきます。例えば、現在のところドル/円はアメリカの金利によって動く傾向があるため、アメリカの雇用統計や米連邦準備制度理事会(FRB)などの指標、金融政策などに注目していれば、ある程度動きを捕捉できます。ところが新興国の通貨になると、「これだけ見ていれば良い」というものがなく、一番肝心なことが、「市場のムード」というあいまいな要素になってしまうのです。

株が上がって市場参加者が積極的にリスクを取りに行く局面だと、新興国などのいわゆるマイナー通貨が買われる傾向にあります。金利が高い通貨が多いですから、金利差調整分(スワップポイント)も高くなるからです。しかし逆のパターンでは大きく下落してしまう危険も孕んでいます。

そうならないようにチェックしたいのが、アメリカの金融政策です。新興国通貨はその国の経済指標より外部要因に影響されやすい特徴があり、外部要因の中でも大きいのはアメリカの動向だからです。基軸通貨であるドル・アメリカの金融政策動向ーーここは、どの通貨を見るうえでも欠かせないポイントでしょう。

ーアメリカといえば、ちょうどテーパリングがニュースになっていますが、そのあたりの動向は注視していく必要がありますね。

基本的にテーパリングというのは、まだ金融引き締めの段階ではなく、金融緩和を徐々に縮小していくという段階です。そうした動きを受けて、利上げがいつ始まるかというのが、おそらく今後の市場の関心になっていくと思います。その場合、ドルの価格もテーパリングがテーマのときよりは大きく動きやすい、と考えています。

現在のざっくりした見通しでは、2023年に利上げが始まるということなのですが、これが来年後半に始まる前倒し観測ならドルはさらに上がるでしょうし、逆に2024年に後ずれするとなると、ドルは少し下がってしまうかもしれません。

そのため、テーパリングが始まってもその影響は実はあまり大きくないのかな、と予測しています。テーパリング自体は、「アメリカの景気が回復しているからこそ、量的緩和を少しずつ縮小していきましょう」という話なので、縮小しても景気が持続し、利上げが視野に入ってくるーーこのようなシナリオ通りに進むかどうかというのが、次のポイントになってくると思います。そして対ドル相場は、全ての国の通貨において最重要指標ですので、アメリカの動向は今後も注視していく必要があるでしょう。

ハードルが高いと思われがちなFXが若者に浸透するには?

JNB,FX
(画像=PIXTA)

ーここ10年で個人投資家の取引が上手くなっていると感じていらっしゃるそうですが、どのあたりでそう感じるようになったのですか?

10年以上前の状況では、外貨を買って円を売ったら売りっぱなしという方が非常に多かったのですが、いわゆる逆張りでドル、あるいは外貨を売る方がここのところ増えています。そして、こうした動きはテクニカル分析の勉強をよくされている成果が出ているのだと考えています。

元々株式の投資家と比べるとFXの投資家はテクニカル分析を重視する傾向が高いといわれていますが、その傾向が近年さらに強くなってきて、「これ以上はドルが上がりそうにもない、これ以上は下がりそうもない」という見極めから逆張りの動きというのが、非常に洗練されてきているんですね。

ー未経験の方には、やはりテクニカル分析などを含めFXはハードルが高いと感じる方が多いようです。若い方にFXを始めてもらうために、どういったポイントを訴求していきたいですか。

これは株式市場と同じで、若者にどうやって資産形成の必要性や方法をアピールするかという話だと思います。

自分が若かったときのことを考えても「いきなり100万円を投資用の口座に入れて運用しろ」と言われても、なかなか難しいと思います。そうなると、数万円、数千円で始められる取引・サービスを始めることは非常に重要でしょう。

株式市場でも最近、非常に小さい単位で取引ができるというポイントを訴求しているケースがありますが、これはFX業界でも同じです。実際、「外為どっとコム」でも「らくらくFX積立」といって、非常に少額でも取引できるサービスに力を入れているところです。

―株式投資でも、単元未満株や投資信託の積立などから始めて、個別株に投資していく段階に難しさがあります。FXの場合、最初はスワップポイント目当てで高金利通貨を少しずつ買っていくところから、実際にテクニカル分析を入れながらドル/円などの通貨ペアをトレードする段階に行くのは、少し難しいと感じることが多いと思いますが。

これは、「自力で」というのはなかなか難しい部分があるでしょう。もちろん本を読むなど、様々な方法で独自に修得された方は今までもいらっしゃいますが、我々外為どっとコム総合研究所としてはそこをサポートしていきたいと思っています。例えばFX口座は作ったけどなかなか取引に踏み出せない方ですとか、取引はやったけれどもなかなか思うようにいかないという方に向けて、セミナーや動画を配信していたりしています。

そこで始めてから残る方(面白さを感じる方、調べてみよう・考えてみようと思える方)とそうでない方が分かれるようですね。

――株から入ってFXを新しく始める方は多いですか?

そうですね。ただ「株をやめてFX」というわけではなく、株式の取引もしながらFXの取引をする、今であれば仮想通貨の取引をしながらFXの取引もするような「併用型」が、非常に多くなっていますね。こういう方は「金融」全般に興味があり、その流れでFXも始めるようです。

また、アメリカ株が非常に好調なので、そこもFXへの興味を引く要因の一つになっていると思います。アメリカ経済のことを色々調べてアメリカ株に投資するときに、どうしても為替の情報にも触れるケースが多いので、そこからFXを始める方が結構いますね。

FXでこれだけは押さえておきたい情報とは

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(画像=PIXTA)

ー先程、情報は広く浅くというお話がありましたが、「とはいえ、広すぎる」という方のために、最低限これだけは注視しておくべきポイントを教えてください。

景気状況・経済状況・政治情勢・金融政策の動向は最低限のポイントです。中でも金融政策が最重要です。あとは苦手な方が多いのですが、各国の政治情勢ですね。これも為替に大きな影響を与えているケースが多いのです。

代表的な例ですと、アベノミクスやトランプ大統領の政策などです。もちろん日本・アメリカに限らず、多くの国で政治が為替相場を動かすケースというのは多々あるので、各国の政治動向に注目すべきでしょう。

ただ、普段の自分の生活と関連性が薄い国、例えば「南アフリカの政治」と言われてもピンと来ない方が多いかと思います。しかし一般的に政情が不安定になるとその国の通貨は安くなりますし、他にも金融緩和などでも安くなります。極端な例ですがトルコなどで政変が起きるなどした場合、大きく値動きする可能性があります。なので「遠い国の政治」と敬遠せずに、政権が掲げている政策などは一通り目を通しておくべきですね。

ー実際には、どのような媒体・メディアで情報収集をするとよいでしょうか

私が情報の収集のためにルーティンで見ているのは、ロイター・ブルームバーグ・日経新聞などで、ニュースに関してはほとんど一般の方と変わらないと思います。ほかに大手金融機関のストラテジストさん・エコノミストさんの考え方を知るという点では、彼らのレポートを拝読させていただくことはありますけど、それくらいですかね。

Twitterでは私も情報発信元になっていますが、私がツイートする情報の中で反響が大きいなと思うものは、やはり速報性が高いものです。例えば、「アメリカの雇用統計出ました。〇万人増でした。失業率〇%でした。」というものが人気のツイートになっています。

そしてマイナー通貨の国の情報もTwitterの情報を参考にされている方が多いと感じています。南アフリカやトルコ、メキシコなどの情報をツイートすると、これも「いいね」やリツイートされることが多いからです。Twitterは、速報性のあるもの、一般メディアではなかなか報じられにくい情報を得るために利用されているようですね。

FXは過去から学ぶことが大事

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ー最後にこれからFXを始められる方に、何かアドバイスがあればいただければと思います。

おそらく、多くの方が始めるときは不安だと思います。お金をかけて投資をするわけですから、「損をしたらどうしよう」「上手くできそうにない」という思いが先に立つのは当たり前だと思います。そんなとき、外為どっとコムだけでなくFX各社が、電話でのサポートや初心者向けの動画や記事の配信など、充実したサポート体制を整えていますので、そこにアクセスしていただいて、できるだけ不安を取り除いてから取引を始めてみてください。急がなくても為替市場は終わりがありませんので、じっくり考えて取り組むのが良いと思います。

またトレードを振り返って何で失敗したか、何で上手くいったかということ分析して、今後に生かすというようなことも重要でしょう。相場の世界は先がどうなるかという予測はほぼ不可能です。もちろん、色々なデータがあって予想はできますが、100%見通すことはまず無理でしょう。

ただテクニカルでも同じことが言えますが、「過去が〇だったから、今後〇になりそう」という推測はできると思います。特に今年、2021年秋には、アメリカのテーパリングが話題になっていますけれども、今までにアメリカがテーパリングを行ったのは2013年から2014年にかけての1回だけなんですね。アメリカは量的緩和をやったことすらあまりなかったので、量的緩和の縮小自体も今まで1度しかしていません。

それを「今後どうなりそうかを考えるための手がかり」として復習することが大事だと考えています。今まではリーマンショック以降、どこの国でも金利が0に近づき、「金利差を得るためには新興国通貨に投資するしかない」という状況でした。新興国通貨は金利が高くてスワップポイントも高いので魅力なのですが、政治リスクも大きく、それだけ急落リスクも覚悟しながらの投資にならざるを得なかったのです。これがアメリカの金利が上がり始めて、日米で金利差がついてくると、あえて新興国の通貨を買わなくても良い時代がやってくるのではないでしょうか。

さらにニュージーランドやカナダなどの先進国の間でも、金融政策が正常化、金融引き締めの方向へ舵を切りそうな気配が出てきています。以前はニュージーランドやオーストラリアの金利が6%~7%という時代もあったので、そのようになってくるとあえてメキシコペソのようなハイリスク通貨を買わなくてもオーストラリアドルでいいような時代がまた来るかもしれません。こうなるとまた別の楽しさが出てくると思いますので、FXを始めるにはいいタイミングなのではと思っています。