2021年前半にビットコインを中心に大きな盛り上がりを見せた暗号資産市場だが、2021年後半から2022年にかけては、どのような動きをしていくのだろうか。懸念材料や今後の見通し、そして現在注目を集めているNFTについて、bitFlyerのマーケットアナリスト・金光碧氏に話を聞いた。

長期の運用先として若い世代の参入が続く暗号資産市場

―2021年前半のビットコイン価格の上昇などを受け、暗号資産投資への注目度の高まりを感じていますか?

当社は国内最大級の暗号資産の取引所として、初心者のお客様から投資経験のある方まで多くの方々から支持されています。今年4月の時点で当社の預かり資産は、6,000億を突破しました。

お客様アンケートなどから年齢構成を見てみると、いわゆる「暗号資産バブル」だった2017年末から2018年初頭と比較して、若いユーザーが増えている印象を受けます。2018年は30~40代が中心でしたが、直近は20~30代が伸びているのです。

また、去年実施したbitFlyerユーザー向けのアンケート調査によると、「暗号資産を始めようと思った理由・目的は何ですか?」という質問に対しては、「将来性がありそう」「少額から始められる(暗号資産は1円からでも始められる)」という回答が多くなっています。

調査期間 : 2020 年 8月7日~ 2020 年8月24日
調査方法 : WEB アンケート調査
調査対象 : 2020 年 1月~6月の期間中に当社で口座開設されたお客様 539 名

特に注目すべきは、「短期的な利益が得られそうだから」よりも「中長期的な運用に向いていそうだから」の回答が多かった点です。3年前のバブルと呼ばれていた時代は、短期的な投資(投機)をイメージする方が多かったのですが、直近で始められた方は、短期的な利益よりも中長期的に考えている方が多いのです。

※調査期間: 2021 年 1 月 5 日- 2021 年 1 月 11 日
調査対象:日米の市場に在住の男女計 3,000 人(20-59 歳)
・日本 n=2,000 、米国n=1,000
・各市場のデータは、調査国の消費者の動向が正しく反映されるよう、国勢調査結果に基づき性別および年齢の構成を調整
・アンケートの質問は 2 カ国語で実施
調査方法:WEB アンケート調査、bitFlyer調べ

今年に入ってからのビットコイン価格の上昇はアメリカ主導と言われていますが、日米ではまだ暗号資産に対する認識に差があるようです。当社が行ったアンケート(※)によると、暗号資産の利用経験率は、「現在利用している」と「以前利用していた(利用したことがある )」の合計が、日本は5%に留まっています。一方、アメリカは22%なので、日本の4倍以上も利用している人の割合が多い結果となっているのです。

もう1つが、「暗号資産について、あなたのイメージを教えてください」という質問に対して、「ポジティブ」「ネガティブ」の2択で選んでもらいました。日本は、78%の方が「ネガティブ」を選択したのですが、アメリカでは76%の方が「ポジティブ」を選択しています。

―日本ではまだネガティブな印象を持っている方が多いようですね。

ただ、先程も申し上げたように、若い方で中長期の値上がりを期待して購入する方も増えています。

上図はJVCEAが出している資料で、国内全体の口座数と預かり資産残高の数値データです。直近1.5年間で約150万口座増えており、特に2021年に入ってから急増しています。預かり資産の残高は、ビットコインの価格が700万円つけた4月時点が一番大きくなってはいるものの、暗号資産+現金で直近1年間で6倍強になっています。アメリカほど幅広くニュースになっているわけではありませんが、日本でも口座数も増えていることから、着実に注目されていると言って良いでしょう。

アメリカ主導で盛り上がるビットコイン

―報道でも目にすることが多かったですが、アメリカのビットコイン市場はかなり盛り上がっていたようですね。

スクエアが出している決済アプリ「キャッシュ・アップ」と「ロビンフッド」(手数料無料で手軽に投資を行うことができるスマホアプリ)が大きく影響しているようです。私の知人もコロナの影響で振り込まれた個人への給付金をビットコインに替えていました。これらのアプリは非常にUI・UXが優れており、本当にワンタッチで給付金をビットコインに替えることができるため、暗号資産市場に若い人が一気に流入したと言われています。

前述した「暗号資産バブル」の際も、私はbitFlyerに在籍していましたが、当時は「日本が暗号資産の中心」という印象を受けていました。しかし、現在では、アメリカの影響が非常に大きいと思います。

実際、伝説のヘッジファンドマネージャーと呼ばれるポール・チューダー・ジョーンズ氏がビットコインを評価する発言をしたり、マイクロステラテジー社のCEOであるマイケル・セーラ氏がビットコインをポートフォリオの一部に組み込むことを表明するといった動きをしています。また、OCC(通貨監督庁)が、銀行が暗号資産のカストディ(証券の保管業務)を行えるようにしたり、機関投資家が購入できるようにするなどの環境整備を去年から続けています。

この先、年金基金や機関投資家が暗号資産に参入するようになると、大きなインパクトになるでしょう。これらの要素に加えて、上述したキャッシュアップのようなアプリの登場が個人の購入を後押ししたことで、去年から価格がぐんぐん上がってきました。ただやはり、4月のコインベース上場が、結果的に最高値となり、その後、5月に最高値の50%くらいまで下がっています。

ー今年4月をピークに価格が下落した背景を教えて下さい

私が考える不安要因は3つあります。

1つ目は、イーロン・マスク(テスラのCEO)氏が、ビットコインマイニングの環境への悪影響をTwitterで指摘したことです。これがきっかけで「ビットコインマイニングは環境に悪く、SDGsの考え方に反するよね」という情報を流布しました。私は最近NFT特集でメディアに出演したのですが、その際にも他の出演者の皆さんから「環境に悪いんでしょ?」と言われました。それだけ多くの方に強い印象を残してしまったようです。

2つ目は中国の規制強化、そして3つ目はアメリカの規制強化です。規制強化の実態・内容よりも、「どのように規制されるかわからない」という不安ですね。この不透明感があると価格は大きく下がります。投資家と話していても、「不透明な状況だと買えない」という意見の方が多いです。

逆に足元の価格が上がってきている背景としては、この3つの疑念・不透明感が払拭されつつあることが大きいと思います。

7月21日にイーロン・マスク氏とジャックドーシー氏(Twitter創業者)、キャシー・ウッド氏(投資運用会社アーク・インベストメントのCEO)が出演するイベントがあり、そこでマスク氏は「ビットコイン自体は信任している」と発言しています。

そして、マスク氏は「Layer2技術(セカンドレイヤー技術)やリーンエネルギーをビットコインに使っていくことで、この問題は解決できると思っているし、解決されたら決済に使いたい」とポジティブな発言もしています。今すぐに解決できる問題ではありませんが、長期的に解決する道筋があり、イーロン・マスク氏がポジティブなイメージも持っていることが明確になったため、一つめの不安は、ここで払拭されたと思います。

また、時系列が逆になってしまいますが、アメリカのインフラ法案が8月上旬に通過しました。これに伴い、暗号資産への過剰な規制ではないと判断した人が多かったようです。また、中国も9月4日に中国人民銀行が暗号資産セクターに対する取り締まりは終わったと発表しました。今後も規制は続きますが、現在と同程度の規制だと言われています。

このようにこれまで存在した3つの不安要素は解消されつつあると、個人的には見ています。

今後の暗号資産市場のカギを握るのは「ETFの承認」

―今後のビットコイン価格を占う上では、どのような要素に注目すべきでしょうか。

1つめのカギは、アメリカのSECで暗号資産ETFが認められるか否かという点です。現在機関投資家が暗号資産を買い始めていると言っても、それほど多くありません。ヘッジファンドのマルチストラテジストと言われている人や、マイケル・セーラーのような「尖った人」、ジャック・ドーシーなど、「特別な人しかまだ買っていない」と言えます。普通の人や大手の一般的なファンド が買うようになって、初めて「機関投資家が来た」ということになるでしょう。そのためには、上場投信、ETFであること重要です。

機関投資家はお金を集めてくるときに、「自分たちのファンドは〇〇に投資します」と説明しなければなりません。そのときに、「ビットコインに投資します」と言う人はほとんどおらず、「自分たちが儲かると思ったものなら何でも投資します」と説明している人しかまだ買えない状況です。しかし、ビットコインETFが上場されると、機関投資家の資金が本格的に入ってくる可能性があります。

アメリカでは、2020年以降でも10件近く申請がされていますが、SECの判断はまだ先送りになっている状況です。なかでもヴァンエック、ウィズダムツリー、フィディリティ、スカイブリッジキャピタル、クリプトン、ヴァルキリーの6社の申請は審査プロセスに入っています。

米証券取引委員会のゲンスラーにとっては、CMEに上場している先物を裏付資産としたETFの方が、通しやすいという話も聞こえてきています。

また、先程お話したようなSDGsへの懸念から、「環境を害する可能性があるようなアセットだと社内でも通しにくい」という機関投資家の意見は多かったようですが、最近は「ポートフォリオに入れたい」と言っている人もいるようです。実際に、私の知人もこうしたETFがアメリカで上場したら「これをどうやって日本で売っていくか」という検討を始めています。

―もし承認されれば、機関投資家の参入も本格的に始まって、資金が流入することでビットコインの上昇要因になるということですよね。

そうした動きを予見して上がると思いますね。審査には時間がかかると思いますが、承認されれば、そのニュースだけでかなりポジティブな評価になると思います。特にアメリカのSECは、私が知る限り2017年頃から検討している内容なので、「今年こそ」ということになれば、かなりのインパクトになるでしょう。

もう1つの注目点として、エルサルバドルでビットコインを法定通貨とする法律が施行されたことが挙げられます。これによってエルサルバドルの暮らしが便利になるようなことがあれば、それも暗号資産のポジティブな評価になりますし、キューバなどフォローしようとする国が出てくる可能性もあります。また、実際にビットコインが日常生活の少額決済時に利用されることで実需も生まれ新たなマーケットが拓ける可能性があります。

ビットコインのネガティブな評価の一つに「ただの投機」「社会的意義がない」といったものがありますが、国単位で大きくポジティブなニュースがあれば、ネガティブな言説へのカウンターになります。こういったポジティブな要因が出てくれば、4月の最高値を超える可能性は十分にあると個人的には考えています。

一方でネガティブな部分として、NFT(※)に相当量の資金が流入してきていることが挙げられます。規制領域ではありませんが、何か大きなネガティブな要因になる事件が起きる可能性は十分にあります。NFT自体はさまざまなことができる分野ですが、少し足元の過熱感があるので、個人的には心配しています。

※編集部注:Non-Fungible Tokenの略。これまで簡単に複製することが出来たデジタルデータに資産的価値を与えることができる技術。新たな市場を生み出す可能性があることから注目されている。

―例えば株式投資であればPERやPBRといった指標がありますが、ビットコインに代表される暗号資産は価格以外に、何を手がかりにしてトレードすれば良いのでしょうか?

私たちも2017年くらいから「ビットコインが世の中に広く広まるためには」というテーマで議論を重ねてきましたが、その中の1つの意見として「理論価格」が挙がることがあります。各アナリストが理論価格を計算できて、その人のレポートを見て割高・割安を判断できるようになれば、という考えですが、まだ実現には至っていません。

また、ビットコインについて言えることとしては、「デジタルゴールド」という見方があることです。これはビットコインの価格を考える上で有効な指標になるかもしれません。ビットコインの時価総額がゴールドの時価総額の何%になったか、という指標がSNSで毎日出ているのですが、現在は5%~10%くらいで推移しています。

ビットコインはデジタルゴールドであると言っている人たちは、金の価値は、金よりもポータブルで扱いやすいビットコインに移ってくると考えており、現在の金の時価総額の一部がビットコインに移行する可能性を指摘しています。これも一つの見方だと思いますが、5%なのか30%なのかで大きく違ってくるので難しいところですね。

―他の暗号資産についてはいかがでしょうか。

イーサリアムについては、2017年時点では、ここまでの存在になると思っていませんでした。ビットコインはプロトコルが単純ですが、イーサリアムはさまざまなことが可能に なります。NFTのようなこともできるし、DeFiで貸し借りすることや、取引所のような機能もプログラミングで実現できます。

また、イーサリアムが好きな人たちからは、シンプルな機能しか持っていないビットコインよりも、イーサリアムの時価総額が低いのはおかしい、といった声も上がっています。 そのため、イーサリアムについては「今ビットコインの何%なのか?」が1つの目安になると思いますね。

それ以外については、例えば、ポルカドットなどはイーサリアムと比較するという見方ができると思います。イーサリアムは手数料が高いという問題点が解決されていません。私もNFTを買うときに、NFT自体の価格よりも手数料が高くなることの方が多く、ガッカリしてしまいます。この問題を解決するチェーンもいくつか出てきていて、それらが上手くいけば「イーサリアムくらいにいくんじゃないか?」という予想もあります。具体的には、ソラナ・ポルカドット、少し前だとイオスなどが候補にあがります。

暗号資産市場の裾野を広げるNFT

―NFTは現在、過熱傾向にあるのでしょうか

最初に、「NFTってなんだろう?」と騒ぎになり始めたのが今年の3月頃で、ビープルの絵が75億円で売れたり、ジャック・ドーシーの初めてのツイートが3億円で売れたりしました。そのあとは盛り下がっていて、私も自分でNFTを買ったりしていたのですが、8月に状況が一変しています。

暗号資産は投資文脈が強くありますが、NFTはそうした文脈とは無縁で、幅広くアート系・ファッション系・音楽系・ゲーム開発者など、さまざまな人が興味を持っています。

先日、メディア出演の際に一緒になったアーティストの方が「カッコいいデジタルアートを作って評価されても全くマネタイズできなかったが、NFTになることでマネタイズできるようになり、食べていけるようになった」と言っていました。そのため、今まで興味を持っていなかったジャンルの人たちが暗号資産業界に関心を持つようになっています。

これはとてもいい傾向だと思いますが、一方で、影響が大きいため、「NFTが売れた。どうしよう」という相談もくるようになりました。

―販売する側からすると代金を暗号資産でもらうことになるため管理の問題などがあると思いますが。

NFTアーティストの SNSを見ていると、「税金どうしよう?」とつぶやいている方も多いです。私たちは取引所なので、売却のご相談に対応することはできますが、税金のアドバイスはできません。今まで興味がなかったからこそ、急に関わることになり困っている人もいるようです。騙されて被害に遭う方が出ないことを祈るばかりです。

また、NFTで個人的に気になっているのが、法律的な所有権が移転するわけではないことです。さらに、商標権のようなものも管理されていないので「bitFlyer」のドメインのようなものが販売されているというケースもありました。これはプラットフォーム(OpenSea)に通報すれば良いだけですが、一般企業の感覚なら出品するときに確認して却下すると思います。

ただ、YouTubeやニコニコ動画の初期のように、市場自体が黎明期の状態であり、OpenSeaも月間3,000億円の流通があるものの社員数は40人程度なので、細かいことを確認できる状況ではないのでしょう。ただこれだけお金が動いているので、トラブルになって「暗号資産ってやっぱり怪しい」と思われてしまう可能性はあると思います。

技術的な側面でイノベーションが起こる面白さと、投機・投資になりがちな側面もあり、バランスは難しいです。ただ、投資・投機の部分で多くの人をアトラクトしているのも1つの事実だとは思います。

―最後に、これから暗号資産への投資を始める人にアドバイスがあればお聞かせください。

月並みですが、まずは少額で始めてみることですね。値段の動きを注意してみれば、いずれ「どのようなニュースが出たら動くのか」というのが分かってきます。

また今では積立での購入もできます。積立なら安いときに多めに買うこともできるので、少しずつ買っていていただき、暗号資産の世界を広げてもらえればと思いますね。暗号資産を通じて、さまざまなことに興味を持っていただけると思うので、余剰資金の範囲で始めてみてほしいと思っています。