特集『Hidden Unicorn企業~隠れユニコーン企業の野望~』では、各社のトップにインタビューを実施。今後さらなる成長が期待される、隠れたユニコーン企業候補のトップランナーたちに展望や課題、この先の戦略について聞き、各社の取り組みを紹介する。
今回は、AIソリューション事業を展開するギリア株式会社代表取締役社長 兼 CEOの齋藤真氏と、取締役副社長 兼 CFOの数藤剛氏のお二人にお話を伺った。
(取材・執筆・構成=斎藤一美)
ソニー株式会社で半導体エンジニアとして従事した後、技術戦略スタッフに転身し、ソニー全社の技術戦略立案などを担当。2012年よりソニーコンピュータサイエンス研究所に出向し、新規事業創出プロジェクトを担当。2015年に株式会社ソニーグローバルエデュケーションの設立を主導し、経営陣として参画(2021年2月退任)。2017年にギリア株式会社を設立し取締役に就任、2021年11月より代表取締役社長兼CEOを務める。
東証一部上場企業等で管理部門全般の実務及びマネジメント、資金調達・事業計画立案等を担当した後、MBOを行ったベンチャー企業の管理部門取締役としてIPOを実現。2018年にギリア株式会社へ入社し、経営管理部門を統轄。ファイナンス、内部統制の整備、予算管理、財務戦略の立案等に従事し、2018年12月より取締役を務める。
ソニーの技術力を武器にソフトウェア産業へ
――最初に、ギリア株式会社様の事業内容について教えてください。
ギリア株式会社代表取締役社長 兼 CEO・齋藤真氏(以下、齋藤氏):弊社の主な事業は、AIソリューションの企画・開発およびコンサルティングの提供です。一般的なAIベンチャーと違ってわかりやすいプロダクトは作りませんが、データ解析から課題の抽出まで顧客となる企業様とともに行い、ビジネスで成果を生み出すAIをオートクチュール型のソリューションとして提供しています。
――創業のきっかけを教えてください。
齋藤氏:弊社は2017年6月に、ソニーグループの子会社であるソニーコンピュータサイエンス研究所を中心としたジョイントベンチャーとして設立しました。もともとソニーグループは、高い技術力で圧倒的に優れたプロダクトを生み出し、世界を席巻するという勝ちパターンを持っている企業です。
しかし、ソフトウェア産業においては、技術力で差別化を図ることは非常に困難であり、弊社の創業当時は「ソフトウェア産業では、技術力よりも豊富な資金力などの強みを持つ企業が優位に立つのでは」という懸念がありました。
その中であえてAIソリューションというソフトウェアのビジネスを立ち上げたのは、ソフトウェア産業を変革するような新しい取り組みに挑戦したかったからです。「技術力を強みとして、その技術力によって、高い性能や差別化を生み出していきたい」という強い想いがありました。
――御社は幅広い産業でAIテクノロジーを提供していますが、得意とする分野はありますか。
齋藤氏:対象産業を絞って、そのドメイン特有の強みを作っていくという考え方が、これまでのソフトウェア産業の主流になっているようですが、弊社は対象産業を特定せず、差別化を生み出す技術力で勝負したいと考えています。そのため、弊社はまず自社のテクノロジーで何を実現できるのかを考え、その技術をビジネス価値に転換しやすい産業にアプローチするという方法を採ってきました。
そもそもAIはデータと密接に関連するテクノロジーで、たとえるならば、製造装置の中にデータという原材料を入れることで、初めてAIというプロダクトが生み出されるようなものです。最初にどのようなデータがあるのかを把握し、そのデータを使って何を実現したいのかを見定めた上で、技術開発を行うのが弊社のスタイルです。
企業のビジネスにベネフィットを提供できるソリューション提案を導き出す
――AIソリューションの導入事例を教えてください。
齋藤氏:弊社のスタイルをよく体現しているのが、家庭教師サービスと個別指導塾の株式会社トライグループ様の事例です。この案件は、まずどのようなデータをお持ちなのかをヒアリングし、どこにビジネス的な優位性があるのかを確認するところから始まりました。その結果、一人ひとりの生徒さんの学習能力値と理解度を見極めることが、優位性を生むポイントだとわかったのです。早速、我々は生徒さんが入塾の際に受ける学習診断テストのデータをAIに学習させ、生徒さんがつまずきやすい学習領域の抽出を試みました。
しかし、既存のテスト結果データでは生徒さんの学習能力を高い精度で判定することができませんでした。そこでトライグループ様に新たなテストを作っていただき、数万人の生徒さんに解いてもらうことにしたのです。その新たなデータをAIに学習させることで、生徒さんの学習能力を高い精度で判別するソリューションを作り上げることに成功しました。これにより、学習診断テスト・結果分析にかかっていた時間が約1/10に短縮され、教師・生徒さん双方の負担を軽減することができています。
このように、弊社は既存のデータから生成されるAIソリューションを単純に提供するのではなく、企業様の事業ベネフィットを最大化するために必要な性能や精度を達成するAIソリューションを実現することを目指します。
AIテクノロジーで日本企業に貢献
――今後の目標や展望についてお聞かせください。
齋藤氏:AIの研究開発ではデータの役割がとても重要です。様々な産業の案件開発を実行することで、多種多様な形式のデータに触れることが可能となり、それら案件開発を通じて蓄積されたAIとデータに関わる知見を強みとすることで、引き続き様々な産業の課題に挑戦していきたいと考えています。
さらに、このような考えに基づいて、弊社では先行開発という取り組みをスタートしています。これは、具体的なソリューションを企画する前に、顧客企業からデータを提供していただき、弊社が先行してAI開発を実行することで適切な性能のAIソリューションを提供可能にするモデルです。これまで様々な産業で実績を積み上げてきたことで実現可能となったモデルと考えております。この取り組みを通して、さらなる成長への道筋をつけていきたいですね。
ギリア株式会社取締役副社長 兼 CFO 数藤 剛氏(以下、数藤氏):弊社は自律運航船や避航操船等の技術開発といった分野で協業すべく、2023年1月に日本郵船株式会社様と資本業務提携を結びました。今後も弊社のテクノロジーと親和性がある海運業や製造業などの重工業産業領域に対し、積極的にアプローチしていくつもりです。
弊社は、これまでテクノロジーの実用化と新しい価値の創造を目標にしてきました。まだ創業して5年超でありますが、売上は毎年50%以上ずつ拡大しています。IPOも視野に入れており、今後5~10年にわたって上昇カーブを描き続けるという目標を立てています。
日本経済を牽引するサプライチェーンに我々のテクノロジーを提供することで、日本の競争力を高めたいと考えています。我々に投資してくださっている企業のためにも、しっかりとマネタイズして還元していきたいですね。
齋藤氏:1990年代~2000年くらいまでの日本の製造業は、桁違いの性能を持った製品を次々と生み出すことにより、世界で圧倒的な存在感を放っていました。しかし、2000年以降のソフトウェアを中心とした製品では、技術での差別化が図りにくくなりました。それが、日本企業が世界市場で停滞した要因の一つだと思います。
しかしながら、今でも半導体産業における日本企業のプレゼンスは非常に高いですし、日本郵船様のような海運企業も十分にヨーロッパ・中国・韓国と伍する力を持っています。これらの産業に対して、AI技術による差別化を提供できれば、さらに競争力あるプレーヤーとして世界をリードできるのではないかと考えています。
50年、100年続く企業を目指して
――目標達成のために、取り組んでいることはありますか。
齋藤氏:日本のソフトウェア産業には、顧客に対して下請け的なポジションになってしまうという課題がありますが、今回の日本郵船様との提携においては、対等な立場で一緒に様々な新しいものを作っていくことを求められています。
企業様と共に成長、事業拡大していくために、もっと弊社から積極的にアイディアを出していかなければいけないと感じていますし、そのために技術的な体制の変革にも取り組んでいきたいですね。また、日本郵船様のように、一緒にやらせていただける企業様を増やしていきたいとも考えています。
数藤氏:弊社のテクノロジーをご活用いただくことで、重要な売上増・利益増を実現されたお客様が多くいらっしゃいます。我々が提供しているテクノロジーの実用化と付加価値創出により、弊社とお客様の双方に、しっかりと利益を出すことが必要だと考えています。
そのためにも、一緒にやらせていただく産業の領域を増やしていきたいですし、それが先ほど申し上げた、日本の競争力強化につながればと思っています。
――今、最も関心のあるトピックは何でしょうか。
数藤氏:世界投資において再生可能エネルギーや脱炭素は大きなテーマであり、この分野に弊社のテクノロジーを適用することができないかと考えています。また、資産価値を高めるようなソリューションにも関心があり、銀行や保険といった金融業界を含めて可能性を模索しています。
――最後に、投資家に向けてメッセージをお願いします。
齋藤氏:私はもともと半導体のエンジニアでしたので、テクノロジーに夢を持ってここまでやってきました。投資家の皆様も、日本企業が生き生きしている世界を望まれていると思います。我々はテクノロジーで日本企業を支え続け、その上で50年、100年と成長を続ける企業を目指しますので、ぜひ注目してください。