特集「令和IPO企業トップに聞く ~ 経済激変時代における上場ストーリーと事業戦略」では、IPOで上場した各社のトップにインタビューを実施。コロナ禍を迎えた激動の時代に上場を果たした企業のこれまでの経緯と今後の戦略や課題について各社の取り組みを紹介する。
創業から上場までの事業変遷
――まず貴社の事業変遷について教えていただけますか?
株式会社デリバリーコンサルティング代表取締役・阪口琢夫(さかぐち たくお)氏(以下、社名・氏名略): 創業のきっかけからお話しできればと思いますが、もともと私はアンダーセン・コンサルティング(現在のアクセンチュア株式会社)でコンサルティング業務に携わっていました。11年ほど勤めておりましたが、ゆくゆくは自分の手で企業経営を行っていきたいと考えるようになり、転職先のトランスコスモス株式会社にて1年ほど経営企画部長を務め、その後取締役として経営の業務に携わるようになりました。その後2003年に当社(設立時の社名は株式会社デリバリー)を創業しました。
創業当初は、システム開発・運用保守など一般的にSIと呼ばれる領域を主に事業を展開し、オフショアの開発拠点を活用したシステム開発モデルの構築や、クライアント企業の基幹システム運用・保守業務の効率化・改善のプロジェクトなどに携わってきました。しかしSaaS、クラウド、AIなど、常に新しいテクノロジーが登場し続ける状況と、それらに対するニーズが多様化していく市場環境を踏まえ、お客様に付加価値の高いコンサルティングサービスを提供するビジネスにシフトしていくべきだと考え、企業名も現在の「株式会社デリバリーコンサルティング」に変更し、ITのプロフェッショナルとしてテクノロジーを活用した経営課題の解決、企業価値の向上に貢献するテクノロジーコンサルティングサービスに軸足をおいて事業を展開しています。
当社が事業を拡大していく中、DX(デジタルトランスフォーメーション)という概念が登場し、企業のデジタル化の活用が加速する中で、当社に対するニーズも多様化し、BI(ビジネスインテリジェンス)やデータ活用に関する戦略策定支援やデータ基盤整備支援など事業領域を拡大していった結果、上場に至ったと考えています。
そもそもエクイティを活⽤しようと思った背景や思い
―― 上場された背景や理由についてお聞かせいただけますか?
阪口: 上場を目指した理由の一つは採用です。この数十年の間にビッグデータ、クラウド、SaaS、AI、ブロックチェーンなど、新しい技術が数多く登場しました。それまで日本企業におけるシステム導入という観点ではERPなどの基幹システムを中心としたものが主でした。急に多くの技術が登場してきた中で、クライアント企業がもつ課題や目的を達成するためには、それらを整理し、最適な活用の仕方をコンサルティングしていく必要があります。そのためにはやはり人数が必要になる部分があります。当社はテクノロジーを活用して顧客の課題や目的を達成するためのコンサルティングを行う企業ですので、先に述べたように次々に様々なテクノロジーが生まれている現状を踏まえると、顧客に寄り添う視点を持ちながらも高い技術力を備えた人材を採用して、当社のテクノロジー領域に対するカバレッジをいかに広げていけるかが重要だと考えています。
―― 採用市場が厳しい中で、どのような人材を獲得していくかについて詳細をお聞かせください。
阪口: 当社は顧客の経営課題をITの視点から解決するためにITのプロフェッショナルとしてコンサルティングを行うテクノロジーコンサルティングの企業です。当社が求める人材はテクノロジーに関する知見をベースに、問題の本質の理解、および解決に向けて体系だった知識とナレッジを駆使するコンサルティングスキルと、常に顧客に寄り添い、期待を超える価値提供を目指すマインドを兼ね備えた人材です。ここ数年は新卒採用や人材育成にも注力しており、当社の経営理念やコアバリューをベースに整備された人材育成プログラムを通して、先ほどご説明したマインドやスキルが獲得できるコンサルタントを育成していくことを重要視しています。
―― 新規の顧客数や1社あたりの売上高を増やしていく上で、どのような戦略を考えられているのでしょうか。
阪口: 当社は上場までに多くのお客様と関係を築いてきました。既存のお客様に対して高い価値を提供し続けることは大前提ですが、同時に新しいお客様に新たな価値を提供することも重要です。社会全体を見ると非常に早いスピードで新しいテクノロジーが生まれ、それらのバリエーションも拡大していますが、当社が提供するテクノロジーコンサルティングの価値は、単純に一つ一つのテクノロジーを提供するだけではなく、お客様の経営課題を解決するために必要なテクノロジーを組み合わせたり、新たなアイデアを取り入れることを通して、高いバリューを提供することだと考えています。
―― 大手企業が多いとおっしゃっていましたが、その開拓やリード獲得はどのような形で営業体制を組んでいかれるおつもりですか?
阪口: テクノロジーおよびコンサルティングスキルについて幅広い知見、経験を持つメンバがリードを発掘し、提案活動は実際に案件に参画し業務に携わるコンサルタントと協力しながら進めることで、顧客が抱えている課題の本質を見極め、顧客にとって本当に価値のあるソリューションを提案します。当社は意外と単純で一つ一つ愚直に提案して案件を獲得する形を取っています。
―― アカウントマネージャーがリードを獲得し、共に提案活動を行うコンサルタントが主体となってプロジェクトを運営していくという役割分担があるということですね。
阪口: その通りです。リードを取ってくるメンバと、コンサルティングを実施するメンバがおり、顧客の課題の本質や、案件の重点ポイントなどをスムーズに共有し、案件に参画した際により高い価値を発揮するために協働して提案活動を行います。COOや私自身も含めてトップ営業は引き続き行っていますし、パートナー経由での営業活動も積極的に行っています。
―― パートナーシップには何種類かあると思いますが、具体的にはどのようなものがありますか?
阪口: 例えば、アクセンチュア社やトランスコスモス社などの企業と共同で当社のテクノロジーを活用してプロジェクトを進めることがあります。またTableauやSalesForceなどのソリューションを提供する企業との提携などもあります。彼らが提供するサービスやソリューションを実際にお客様に活用してもらうためには、コンサルティングやトータルのサポートが必要なので、その領域で当社が持つテクノロジーに対する知見とコンサルティングスキルを提供していきたいと考えています。
―― プライムであることにこだわるよりも、自社独自のバリューを大事にしているということですね。既存の案件が大半を占めていると思いますが、既存の案件に対してどのような提案を行っていますか?
阪口: 現場で顧客と対峙しているコンサルタントが日々のコミュニケーションの中でさらなるニーズや周辺領域に関する課題、取り組みなどに関する情報をキャッチし、心血を注いで提案を行っています。実績として継続率や維持率は80%程度で、平均して3年から5年ぐらい継続した関係を築いています。提案内容としては、現在の案件で行っている活動を周辺の領域に拡大、展開するケースもあれば、既存の案件における当社のバリューを評価していただき、新しいビジネス開発案件にお声がけいただくこともあります。例えば、AIの新しいプラットフォームを構築する場合、パートナー企業はデータサイエンティストの立場でそのAIに特化したコアエンジンの開発を担当し、コンサルティングやエンタープライズといった切り口でのシステム全体の構想立案は当社が担うといったケースもあり、ニーズに合わせて当社が価値を提供できるスキームを常に模索しながら最適なスキームを提案しています。
今後の貴社における事業戦略や展望
―― 今後の投資領域として、具体的にどのような取り組みをされていますか?
阪口: まずは人材の採用、育成が最優先です。純粋なコンサルティング会社として、これから大きな価値を創出することが期待される国内外のパートナー企業をいち早く見つけ、ともにPoCやR&Dなどを実施しながら価値を高め、お客様に提供していくという形を取っていくつもりです。つまり、新しいサービスを一から作り上げるためのコストを大量に投入するより、人材の採用、育成に注力しつつ、最新のテクノロジーへの高感度なアンテナを持ち、新たなパートナー企業の発掘、協業促進を並行して進めていく方針です。
―― 新卒採用から始めると時間がかかるイメージがありますが、どのように考えていますか?
阪口: 私は会社のカルチャーやコアバリューに対する理解があればあるほど、適切な教育を受けた後の成長が早いと感じています。私がアクセンチュアにいたときの経験からもそう思いますし、当社でも同様の傾向があります。なので、当社ではカルチャーやコアバリューの共有、共感を生み出すプロセスを体系化しており、入社後すぐにその体系に基づいたオリエンテーションやオンボーディング、研修といった活動を行い、以降の成長スピードの加速につながるような人材育成プランを設計しています。
技術系のコンサルティング会社では、若い時期からプログラマーやシステムエンジニアとしてスタートすることが多いため、成長スピードが早く、マネージャークラスに早期に昇格することができるので、そういったスピーディなキャリア形成とその支援をモチベーションとして育成に励みたいと考えております。
―― 上場に際して、インオーガニックに成長していくための構想などはございますか?
阪口: 上場を機に経営や管理部門の体制も整えてきましたが、当社のサービスの特性上テクノロジーコンサルティングの人材は最も重要で、現在の150人という数字を最低でも倍に増やしたいと考えています。その上で優れたテクノロジーを持つ企業と提携し、テクノロジーのカバレッジを広げたいと思っています。その後、状況に応じてM&Aなどの企業価値を高める戦略的な提携を検討していこうと考えています。
―― スタートアップ支援のサービスについて発表されていましたが、具体的にはどのような取り組みをされているのでしょうか?
阪口: スタートアップ企業の支援サービスについては、当社が支援することでより大きな価値を社会に提供できると感じたテクノロジースタートアップ企業に対して、お互いの得意分野を活かしつつ共にビジネス拡大・成長につながるパートナーとなることを目指して事業を展開しています。
自社が持つコアテクノロジーを軸にしてサービス提供を行うビジネスモデルの企業においては、その事業規模に応じたサービスレベルを満たすためのシステム構成やアーキテクチャーが必要なのですが、ローンチ当初は順調に価値提供できていたとしても、顧客数が増えビジネス規模が大きくなってきたときに、可用性、拡張性、保守性、セキュリティなどといった部分でひずみが生まれ、運用に膨大なコストがかかるケースが散見されます。 その膨大なコストを適正化するためには、前述したような部分に関する要件を適切に捉え、設計されたシステム構成が求められますが、自社内でそれらを網羅的に精査し、最適なシステム構成を計画立案、構築できる会社は意外と少ないのが現状です。我々はそういった部分で技術力の向上やアーキテクチャー再構築などの支援をスタートアップ企業に対して行っていこうと考えています。
ZUU onlineのユーザーに⼀⾔
―― 最後に、弊社のメディアユーザーに向けて、一言お願いできますか?
阪口: 当社では一歩一歩は小さくても着実な成長を大前提としています。去年は社員の給与のベースアップの実施や、その他様々な投資を行いました。テクノロジーとコンサルティングの両方を理解する人材を育て、増やしていくことは、DXの実現が求められる現在の日本においても非常に重要で、社会貢献という観点でも非常に価値があると思っていますし、確実に需要も増えています。 そういった時代において、投資家の方々にもIRなどを通じて当社の価値を伝え、期待に答えていければと考えておりますので、ぜひこれからもデリバリーコンサルティングを応援していただけますと幸いです。
- 氏名
- 阪口琢夫(さかぐち たくお)
- 社名
- 株式会社デリバリーコンサルティング
- 役職
- 代表取締役